ミスを修正しようとしたら、どう振ったらいいのかわからなくなった…!そんな悲劇から救われる方法
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.11
新連載、伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉一つひとつを、皆さんにお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.611/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司
基礎をしっかりと積むことで未来が大きく開ける
中部銀次郎さんはいつものように新橋の小料理屋、「独楽(こま)」のカウンターで好きな日本酒を嗜んでいた。近くに座る人たちのゴルフ四方山話を楽しそうに聞いている。
ゴルフへの理想を追求していたときには見向きもしなかった、そうした話も引退した今なら落語の長屋話を聞くように面白く聞ける。中部さんはそうした自虐的な面白話に笑いながらもこんなことを思う。
「話題は大方ミスの話ですよね。何であんな良いライから、ひどいミスショットを放ったか。その原因追及に話が及ぶことが多い。それも池に何度も入れた、OBを何発も放ったなどの悲劇を喜劇として話す。笑い話にして悲しい出来事を、なかったことにしようとするわけでしょう。
しかし、話したからと言って次が上手く行くことはそうはない。原因をしっかりわかってそうならないように練習をしっかりと行う。それが大事なわけですが、アベレージゴルファーならば、実はそうしたことは余計なこと、無駄なことと言ってもいいと私は思います」ミスの原因追及が余計なことであり、無駄なことというのはどういうことなのだろう。
「例えばスライスが出て、それを収めることができずに何発もOBを打ったとしましょう。ダウンスイングがアウトサイドインになっていて球を擦ったと原因がわかったとします。ではそれを直してインサイドアウトのスイングに変えようとすると、今度はひどいフックに悩まされることになる。それでも球に当たればいいけれど、大方は当たらなくなり、ダフリやチョロばかりになるのです。
だったら、元のスライスのほうがまだ良かったと言って、元に戻そうとするけれど、もう元には戻らないんですね。どう振っていいかわからなくなり、スイングがメチャクチャになる。つまり、壊れてしまうわけです」
中部さんにそう言われて、ぎくりとしてしまう。そうした経験は自分にもあり、その辛さと言ったら筆舌に尽くしがたいからだ。きっと読者の方にも思い当たる人は多いだろう。
「どう振ったらいいかわからない」と頭を抱えたことが。
ミスから救われる方法は"基本"にある
「なぜに壊れてしまうかというと、基本ができていないのに、直そうとするからですね。基本がないから元に戻すことは不可能です。スライスがどうして起こるか。スライスをなくすにはどうしたら良いか。こうしたことは本や雑誌に書いてありますので、読めば理由がわかり、矯正しようとする。
しかし、土台、そんなことは素人には無理なんです。だから、スライスが出たからと言って、フックにしようなどとは考えない。大事なことは基本に立ち返るということです。基本を見直して、しっかりと練習する。それが最善なのです」
このことは中部さんだけでなく、プロでもしっかりと行っていることだ。スライスをフックにする。そんな極端なことをしてはスイングが崩れてしまうことは当たり前。ひたすら基本を行うことしか、ミスから救われる方法はないのである。
中部さんは言う。
「まずはアドレスを見直す。スクエアアドレスが自分の基本ならば、スタンスの向き、体の向きなどを確認する。背骨が地面に対して垂直に立っているか。また、背中は背骨が真っすぐか、頭は垂れていないか。両肩ともストンと落ちているか。手や腕は脱力できているか。
アイアンのダフリ・トップは、アドレスの見直しだけで解決することが多いんです
スイングの「マイナーチェンジ」レッスンシリーズの第4回はアイアン。「昨年はよく穴を掘ったな〜」「ダフリだけでなくトップ...
さらにグリップは綺麗に握れているか。こうしたことをチェックしてしっかりできていることを確かめたら、すぐにボールを打たずに素振りを入念に行う。ゆったりとバックスイングし、ゆったりとダウンスイングしてフィニッシュまで振り終える。淀みなくスムーズに振ること。何度も何度も行って同じように振れるまで素振りだけを行う。クラブが風を切る音をよく聞いて素振りをすることです」
言われてみれば、コースを回るようになってから、そうした基礎練習をしていなかったことに気がつく。中部さんはこちらの思ったことを察して言う。
「ゴルフを始めた頃は、基本のチェックや素振りはよくやっていたでしょう。しかし、コースに出るようになったら、ミスしたことばかりが頭に残って、それをなくそうとバカなことをやり始める。しかし、コースに出るようになっても、大事なことは基本に戻る、基本の練習を行うということなのです。
なぜなら、そこにあなたのスイングがあるからです。しっかりと正しいアドレスができたあとは振るだけだったはず。どう振れ、こう振れはなかったはずです。だから、あなただけのスイングが作れたわけです。スイングとはそうしたものです。それを無理やり変えては元も子もなくなってしまう。あなただけのスイングに戻すことが大事なのであり、それこそが唯一、ミスを矯正することになるのです」
中部さんが強くなれた理由
中部さんは子供の頃から素振りを欠かさずに行ってきたし、それは甲南大学に入ってからも同様だった。新入生の中部さんはボールを打たせてもらえなかった。毎日毎日、地面を打つことを余儀なくされた。
「私が学生だった頃、ボールは糸巻きバラタでした。アイアンでトップすればカバーが裂けて使い物にならなかった。だから新入部員はボールなど打たせてもらえなかった。部室の脇の地面に新入部員がずらっと並んで地面を打つわけです。1本の長い線を地面に引いて、その線を跨いでアドレスして7番アイアンを振る。全員で「イチ、ニ、サン....」と数えて地面の線に向かってクラブを振ります。
初心者は当然、線にクラブヘッドを当てることはできない。それも地面を打つことが怖いので擦る程度です。でも、何カ月もそれだけをやっていくうちに自然と地面の線に打つことができるようになる。しかも線から先の土を打つことができるようになります。
つまりアイアンをダウンブローに打つことができるようになるわけです、とはいえ、その頃には手の豆が潰れて血が出ていますけれどね」
中部さんはそう言って笑った。
大学入学前にすでに日本アマに出場していた中部さんであれば、ボールを打ってもカバーを裂くようなことはなかったであろう。しかし、特別待遇などなかった。いち新入部員として、皆と同じように土打ち素振りを行ったのだ。中部さんは笑いながら言う。
「そのときに初めて、確固とした私のスイングの基本ができあがったのだと思います。血の滲むような練習をしたからこそ、基本が習得できた。それも私だけのスイングの基本です。ミスをしたり、スイングに迷ったときにはその基本に戻ればいい。私が強くなれたのは、大学時代にさせられた基本の猛練習があったからだと思います」
ゴルフだけでなく、どんなことでも基本をしっかり作り上げる。すぐに応用などに走ってはいけない。徹底して基本を習得する。それができれば大きな未来が開けるのである。
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)
1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。
甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。
著者・本條 強(ほんじょう・つよし)
1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。
快挙を達成した川﨑春花は、パッティングのアドレスで指4本分近づいて立っていた?!
昨年、ルーキーながら公式戦の日本女子プロゴルフ選手権を含む年間2勝を挙げ、メルセデスランキングでも15位に入った川﨑春花...
カップインの確率が低いのは、なんとなく構えているから!パットのアドレスを見直せば90切りができる
ゴルフにおいて正しいアドレスは不可欠。もちろん、これはパッティングにも当てはまります。でも多くのアマチュアは、ただ何...
2024年冬ワークマンのゴルフウェアおすすめ19選|レインウェアなど
この記事では、ワークマンで揃う冬のゴルフ向けウェアおすすめ製品を紹介します。 職人さん向けの作業着の開発・販売で高...