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「発売はこちらが一番を取るんや!」ミズノが驚くべき短期間で「バンガード」を生み出した背景とは

【第35回】商品開発はドラマ!老舗メーカーミズノが総力戦で送り出した“発売”一番乗りのカーボンウッド

2023/12/07 ゴルフサプリ編集部

ミズノ,カーボンウッド,バンガード

ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話を、メーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はバンガード(ミズノ)が主役のストーリー。

GOLF TODAY本誌 No.618/70〜71ページより
写真/ゴルフトゥデイ編集部 取材・文/嶋崎平人

新規参入メーカーの発表を受け急展開!

ミズノ,カーボンウッド,バンガード

1982年8月1日にミズノが世界一番乗りで発売したカーボンウッド「バンガード」。自社の養老工場が24時間体制でヘッドを生産したという。

1982年4月、ヤマハが「世界で初めてカーボングラファイトコンポジットを採用したゴルフヘッドの開発に成功、商品化を決定」と発表した。

ヤマハにとってゴルフ分野参入への第一歩であり、しかも「世界初のカーボンウッド」を引っさげての新規参入というニュースを受け、ゴルフ界に激震が走った。

一方で、肝心の“発売”時期は7か月後の11月とされており、何としてもそれまでの発売に食い込もうと、既存のゴルフメーカーは競うようにカーボンウッド開発を表明。

1982年8月1日、ヤマハの発表からわずか4か月後、ミズノが世界初のカーボンウッド「バンガード」を“発売”した。

こうして世界初の名誉を勝ち取り、歴史に名を刻んだ「バンガード」だが、この短期間においてどのように開発・製造・発売できたのか、まさに「商品開発はドラマ」というべき経緯について、ミズノゴルフ事業部の賀屋和之氏に話を聞いた。

賀屋氏は1983年ミズノ入社、当時はクラブ企画を担当していた。

他社よりも先の発売を目指し、全社一丸で開発に邁進!

ミズノゴルフ事業部,賀屋和之

当時の開発秘話について話を聞いた、ミズノゴルフ事業部の賀屋和之氏。賀屋氏は1983年ミズノ入社、当時はクラブ企画を担当。

ヤマハの発表から約2か月後の6月21日、ミズノは他社に先駆けて8月1日にカーボンウッドを発売することを発表。

芝のゴルフ練習場でいち早く試打会を実施するなど、当時の堂湯ゴルフ事業部長の「負けたらあかん!」「発売はこちらが1番を取るんや!」の大号令のもと、全社一丸となって「カーボンウッド発売一番乗り」に向け邁進した。

今まで養老工場が主体であった開発部隊へ大阪からも技術部門を送り込み、24時間体制でヘッドを生産。もともと養老工場は24時間で稼働していなかったが、まさに自社工場ならでは迅速さである。

ただ、カーボンヘッドの量産は初めてで、特にヘッド表面に細かい穴がでるピンホールには苦労した。これを埋めるため、ゴルフ事業部の賀屋さんも作業に駆り出された。

バンガードの意は「先駆者」まさにぴったりだが…実はスポーツ総合メーカーならではの逸話が!

ヤマハの発表を受け急展開を見せる形になったが、カーボンヘッドについては、養老工場において樹脂系の成型をしている部門で1979年頃から研究を開始し試作を繰り返していた。偶然ではあろうが、ヤマハが発表する前の1982年2月には「カーボンヘッド製造の特許」を出願している。

カーボン短繊維を使ったヘッド製造は比較的やさしかったが、ヤマハの発表を受け、パーシモンヘッドのようにネックに向けて木目と同じような流れを作るべく、ネックまでカーボン長繊維を編み込んだヘッドに挑戦。軽くて強度があり、反発もよいヘッドを目指していた。ヘッド用の金型については試作用がすでにあり、発売日を優先するためそのまま生産用に投入。

ミズノ,カーボンウッド,バンガード,設計図
パーシモンヘッドのように「ネックに向けて木目と同じような流れ」を作るべく、ネックまでカーボン長繊維を編み込んだヘッドに仕上げたという。

金型の形状はそれほど大型ではなく、当時の開発担当者も「カーボンヘッドに関する知見がまだ浅かったので、試作用では強度を考えて小振りのヘッド形状の設計であった」と語っている。

軽くて強いカーボンの特性をさらに生かした形状は、新たに金型を起こし翌年発売された「バンガードLX」に搭載されたが、ミズノの複合素材技術においては各分野で長く研究されてきた実績があった。

戦前には軽くて強いものの代表格ともいうべきグライダー製造において複合素材を扱い、1968年にはABS樹脂製ヘッドの練習用クラブを製作。さらにスキー板(ブルーインパルスなどの商品名)も生産するなど、東レのカーボン繊維を使用し、カーボンコンポジットをつくる生産技術はすでに保有していた。驚くべき短期間で発売にこぎつけた背景は、ここにもあった。

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ところで、世界初のカーボンウッドとなった「バンガード」だが、名前の由来とは一体だったのか!?

聞けば、発売までを急ピッチで進めたことで新しく商標をつくり登録する時間がなく、ミズノが既に保有していた商標を流用したとのこと。

「バンガード」の意味は先駆者、先導者で世界初のカーボンヘッドに相応しい名前であったが、何を隠そう、“スキー板”に使用していた名前だというから驚く。とはいえ、スキーから生産技術も商品名も活用できるというのは、総合スポーツメーカーのミズノならではだ。

発売に先駆けてプロにも試打してもらい「球が高く上がるのでアマチュアにはよいスペック」。ショップからも「やさしい、球が上がりやすい、打ちやすい」と評価は上々、価格はカーボンシャフト仕様で7万円に設定された。

当時の最高級パーシモンヘッドが9万8000円だったのだが、それより少し低い価格設定にしたのだろうとのこと。世界初のカーボンウッドということで、販売数は市場の平均を上回る月産3000本(当時のゴルフ専門誌掲載)であったが、それでもすぐ品切れになり月産を倍の6000本に上げても需要に応えられないほどの爆発的人気商品に!

性能もさることながら、ミズノがこだわった“世界初”のインパクトは強烈であり、開発・生産の努力が報われた瞬間でもあった。

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