大型ヘッドドライバーの祖・ビッグバーサ誕生秘話
【第36回】商品開発はドラマ!キャロウェイの代名詞!世界中で爆発的ヒットしたメタルドライバーの名器
ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話を、メーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はBIG BERTHA(キャロウェイゴルフ)が主役のストーリー。
GOLF TODAY本誌 No.619/70〜71ページより
写真/ゴルフトゥデイ編集部 取材・文/嶋崎平人
ビッグバーサの原点は先に発売され高評価を受けた「S2H2」シリーズに隠されていた!
187cm³と今ではかなり小さなヘッドだが、1991年1月に「PGAショー」で初めて紹介された時は“大型メタルヘッド”として大きなインパクトを与えた。
東京港区白金台にあるキャロウェイゴルフ本社を訪ねると、入り口のショーケースに「BIG BERTHA(ビッグバーサ)」のヘッドが展示されている。
今見ると小さなヘッドだが、1991年1月に米国フロリダ州オーランドで開催された「PGAショー」(ゴルフ関連の商品展示・商談会)で初めて紹介された時は、“大型メタルヘッド”としてゴルフ業界に大きなインパクトを与えた。
その「ビッグバーサ」がどのようにして誕生したのか。キャロウェイゴルフ株式会社マーケッティング・ブランドコミュニケーションズ・セクションマネージャー原哲史氏に話を聞いた。
また参考文献として、キャロウェイゴルフSTORY(松尾俊介著)、Thanks Ely(RICH OVERTURF著)、当時の雑誌記事などから、「ビッグバーサ」開発の経緯を解き明かしていきたい。
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「ビッグバーサ」の誕生秘話について、キャロウェイゴルフ株式会社マーケッティング・ブランドコミュニケーションズ・セクションマネージャー原哲史氏に話を聞いた。
2022年の売上収益が39億9500万米ドルと世界のトップゴルフメーカーであるキャロウェイの基礎を築いたのは、1988、1989年発売のS2H2アイアンとウッドだろう。
そのS2H2シリーズの思想を受け継ぎ、名実ともに世界のゴルフメーカーに押し上げたのが1991年発売の「ビッグバーサ」である。
S2H2は、short(短い)、straight(真っすぐ)、hollow(貫通した)、hosel(ホーゼル)の頭文字SSHHから命名されたもので、このユニークなクラブはキャロウェイの創業者イリー・リーブス・キャロウェイと、最高開発責任者リチャード・C・ヘルムステッターの出会いがあったからこそ生まれたという。
「ビッグバーサ」プロジェクトの始動
それまでのメタルウッドは、重いホーゼルと小さなヘッドで重心が高く重心深度も浅かったため、ヘッドスピードの速い上級者しか使いこなせなかったのだが、その難しさを解消するため、S2H2ウッドは、ホーゼルをなくしその重量20グラム以上を、ヘッド本体に配置することに成功。重心位置を低く深くでき、やさしいメタルヘッドとして評価を受けた。
特に#3ウッドが高評価で、その理由を探るべくカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームに数値解析を依頼。その結果、重心位置と重心距離、重心深度が理想的な位置にあり、この理想的な重心位置を持つ大型のドライバーであれば、さらにやさしく遠くへ飛ばせることが分かったのだ。
この結果を受け、創業者のイリーが開発者のヘルムステッターに大型メタルウッドの開発を指示。これが「ビッグバーサ」プロジェクトの始動となった。
ビッグバーサとは最も有名な大砲の名前。大型ドライバーのトップガンになることを確信して命名!
当時、大型メタルヘッド製造における最大の難関は、いかに薄肉構造を実現するかということ。鋳造製法の場合、ヘッドと同じ構造の蝋(ろう)型を作り、それに金属を流し込むロストワックス法が用いられ、通常この製造過程は外注する。しかし、開発責任者であるヘルムステッターを中心とするチームは今までにない大型ヘッドを作るため、このロストワックスの製造法までをも自社で担当したのだ。
試行錯誤を繰り返しながら、研究、開発にあたり5件もの製造法の特許を申請したというから、アイデアをモノづくりに落とし込むことがいかに大変な作業であるかは想像に難くない。
こうして製造課題をクリアしながら、最初のプロトタイプ(試作品)が出来上がったのは1989年1月。しかし、この段階ではイリーの「明らかに優れていて、その違いを楽しむことができる」というコンセプトを満たすものでなく、さらなる改良を加え、2年の歳月を経て1991年に満を持して発売した。
スライスよ、さらば!2023モデルの「BIG BERTHA」はスコアアップに大貢献してくれそうだ!
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世界的名器「ビッグバーサ」の誕生
1998年に最初のプロトタイプ(試作品)が出来上がってから1991年の発売まで約2年。さまざまな改良を加える中で5件の特許の申請を経て世界的名器が誕生した。
S2H2のヘッド体積155cm³に対して、新たな薄肉構造の「ビッグバーサ」のヘッド体積は187cm³。20%以上も大型化し、当時としては画期的なサイズだった。
大型化によるヘッド強度に関しても、ロボットテストだけでなく、当時のドラコンチャンピオンであるマイク・ダナウェイに5000発の試打テストを実施。
当時のインタビューで「ロボットよりヘッドスピードの速いダナウェイ選手のインパクトに耐えたことが強度の証明」とヘルムステッターは自信をのぞかせていた。
「ビッグバーサ」という名前をつけたのは創業者のイリーだった。このネーミングの由来が、1991年のカタログに明記されている。
「ビッグバーサは1917年第一次世界大戦で使用された最大で最も有名な大砲の名前で、製造会社の社長令嬢の名前『バーサから取られた。ビッグバーサが世界の大型ドライバーのトップガンになることを確信していたので、この名前がふさわしいと考えた」と記されている。
“遠くへやさしく飛ばすことができるドライバーは、ゴルファーの武器になる”との思いが込められたものだが、実は、プロトタイプの時点からすでにこの名前が使われていたのだとか。社内でも単なる開発ネームだと思われていたが、イリーのこだわりで最終製品にもそのまま使用された。
「ビッグバーサ」の大ヒットで、キャロウェイの売上は89年1000万ドル、90年2100万ドル、91年5400万ドル、92年1億3200万ドルと倍々ゲームで成長。世界のトップメーカーとしての地位を揺るぎないものとした。イリー、ヘルムステッターのモノへのこだわりは脈々と引き継がれ、「PARADYM」などの革新的なクラブを世に送り出し続けている。
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