9番アイアンで180ヤード飛ぶ……、これって本当に「飛んでやさしい」クラブって言える?
石井良介のゴルフ・すべらない話:第89回

やさしいクラブはロフトがあるべき。
「最近、ゴルフクラブがどんどんやさしくなることは、果たして両手を挙げて喜べることなのか?」と考えることがあるという石井良介。やさしいクラブはゴルフを簡単にしてくれるのでは? と思うのだが、一体どういうことなのだろう。やさしいゴルフクラブについて、石井良介の考えを聞いた。
やさしいアイアンを選ぶと軒並みロフトが立ったモデルになる
中空アイアンを使っている、あるお客さんのボールは容易く上がります。ですが、その反面、風の中のゴルフでは上がるがゆえに手に負えなくなります。打つこと自体はやさしくても、何かに対してはすごく難しくなる。それを理解したうえで使わないとスコアメイクはままなりません。
とはいえゴルフはミスのスポーツですから、クラブはやさしいに越したことはありません。ただ、そろそろユーザー側もやさしいからと飛びつくのではなく、デメリットも考慮して選ぶフェーズにきているのではないかと思います。それに「飛びます」「やさしいです」の一辺倒では、この先、本当の意味で新しいクラブが出てこなくなると思うのです。
こんなことがありました。あるアイアンの新製品が出ました。僕はその数世代前のモデルを好んで使っていたのですが、ニューモデルでは僕が好きだったところが変わっていました。球の弾き感が強すぎたり、ロフトが立っていて飛びすぎるといったことです。
試打しただけでもそうなのですから、ラウンドではどうなるか見当がつきません。例えばフォローの風にフライヤーがかぶると9番アイアンでも180ヤードくらい飛びます。トラックマンで測ったことがありますが、ヘッドスピードは37m/s台、打ち出し角が18~20度でスピン量は2000回転台。もうドライバーみたいなデータです。このことからもアイアンではスピンコントロールが大切だとわかります。でも、今のやさしいアイアンではそれができなくなっている。この例で言えば9番で200ヤード飛んでしまうかもしれないのです。

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アマチュアはなぜか世間一般の平均飛距離を打ちたがる
とかくアマチュアの方は、カタログ通りの弾道や距離を打とうとします。それが正解と考え、その通り打てると気持ちがいいと言う人さえいます。でも、それはいかがなものでしょう。ある番手が思ったより飛ばなければロフトを立てればいいし、飛びすぎるなら寝かせればいい。そうやって安定して打ちたい距離を打てる方がよほど気持ちがいいと思います。そもそもツアープロはそのようにクラブを調整しています。
アマチュアの方には多かれ少なかれ、自分がプレーしている中で打ちづらいと感じる距離があるはずです。そうであれば、それをカバーできるようにクラブをいじればいい。これはアマチュアの方がやっても十分な効果が見込めます。もちろん自分の現状を把握していないとセットアップできませんが、そもそも自分を知ることが大前提。カタログに合わせていたら、いつまで経っても自分はわかりません。
もちろん、そうしなくてもいいようにロフトを選べるといいですが、アマチュアの方がやさしいアイアンを選ぶと軒並みロフトが立ったモデルになってしまうのが現状です。僕はやさしいクラブはロフトがあるべきだと考えているので、すごくギャップがあります。タイトリストがロフトの多いT250の派生モデルを出したりしていますが、そういうモデルがもっとあってもいいと思います。ボールは上がってナンボ。特にヘッドスピードが速くない人にはロフトが必要です。
ロフトはスイングにも影響します。上がるものは抑える練習をすればいいですが、上がらないものはすくい上げるしかないのでスイングが壊れます。タイガー・ウッズは「スピンは減らせるけれど、物体の性能以上に増やすことは無理なのでスピンが入るものを使う」と言っています。タイガーが使っていたクラブを見たことがありますが、10.5度と表記されているドライバーのロフトが、実際には12度くらいありました。それを立てながら打ってスピンを減らしている。立てるにはロフトがないと無理なのです。
その意味ではピッチングウェッジ(以下PW)や9番アイアンで低い球を打つ練習をして、スイングではなくロフトがボールを浮かせてくれることを認識してほしい。北海道でラウンドすると、アマチュアの方はベトっとした洋芝でみんなボールをすくおうとします。だからダフる。ロフトを立てて上から入れて初めてスピンがかかって上がっていく。サンドウェッジ(以下SW)でフェースを開いてボールを上げる時も、すくったらトップするのでヘッドを地面に叩きつけます。考えていることと反対のことをしなければいけないのはゴルフの罪作りなところだとつくづく思います。
ロフトを考えてゴルフをすると、難しいと感じていたことも簡単になります。例えば短いバンカー越えのショット。ピンが手前ならボールを上げなければいけませんが、奥なら上げる必要はありません。9番やPWでバンカーを越せばいいだけで、あとは転がってくれます。上げなきゃいけないと思っているけれど、前に飛ぶボールなら越えていく。それなのに、みんなバンカー越えのアプローチでSWを使い、飛ばないでバンカーに入れるんです。なぜ、ピンが近いと難しいかといえば、バンカー越えとボールを止めることの2つを同時にやらなければいけないからなのです。

石井良介
いしい・りょうすけ。1981年生まれ。『令和の試打職人』として各種メディアに引っ張りだこの人気解説者。PGAティーチングプロA級。You tube「試打ラボしだるTV」が人気。早くからトラックマンを活用したレッスンを開始。高い経験値と分析力で正しいスイング、正しいギアへと導く指導と的確な試打インプレッションに定評がある。

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