ゴルフと噛み合わせ1|ゴルファーは歯が命! バランスのいい噛み合わせと毎日のケアでボールを飛ばそう
生涯スポーツ・ゴルフと健康「末長くゴルフを楽しむために」|第18回
「最近、奥歯のあたりが痛む」「ゴルフの後にアゴがだる重い」と、気がかりなゴルファーの皆さん。もしかするとその痛みは、歯の噛み締めすぎによる顎関節症が原因かもしれません。ゴルフやデスクワークの後は噛みしめすぎた筋肉をケアし、いざコースに出たときこそ、しっかり噛みしめてボールに持てるパワーを伝えましょう。
ゴルファーは歯が命! バランスのいい噛み合わせと毎日のケアでボールを飛ばそう
奥歯の痛みだと思っていたら実は顎関節症だった!?
さっそくですが、耳の前から頬骨のあたりに人さし指、中指、薬指を当ててみてください。何度か歯を食いしばると皮膚の下の筋肉がビクビクッと動くのがわかります。それが食べ物を噛み砕くときや歯を食いしばるときなどに使われる咬筋(咀嚼筋)です。
実は「奥歯のあたりが痛い」といって歯科医院を受診するゴルファーの一部は、歯のトラブルが痛みの原因ではなく、咬筋を使いすぎたために咀嚼筋障害を起こし「顎関節症」と診断されるケースが少なくないようです。
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筋肉の使いすぎによる炎症や負担を放置すると……
咬筋の使いすぎはゴルフスイングのどのような動作で起き、なぜそれが顎関節症になってしまうのでしょうか。鶴見大学歯学部で口腔顎顔面外科を専門とする石塚忠利先生に解説をしていただきました。
「ゴルフに限らずスポーツで力を発揮しようとする時、人は自然に歯を噛み締めます。ゴルフではインパクト周辺で噛み締めることによって咬筋や側頭筋などの咀嚼筋が収縮します。このように筋肉をよく使うと、咀嚼筋に炎症が起こります。簡単にいうと筋肉痛なのですが、咀嚼筋痛は体の筋肉痛と違って、自覚症状に乏しく、初期の段階でなかなか気づきにくいという特徴があります。長いあいだ咀嚼筋痛をそのままにしておくと、顎の関節への負担が増したり蓄積されたりして、より重症な顎関節症に進展してしまうのです。顎関節症にはⅠ型からⅣ型まであり、咬筋を押すと痛みがあるなど咀嚼筋になにか障害があれば顎関節症Ⅰ型に分類されます。Ⅰ型は、可逆的な病態(一度起きた変化がまた元に戻る)で、正しくケアすることで、これ以上重症化させないことが大切です」。
そもそもの始まりは歯を噛み締める動作にあるようです。
力の発揮、基本姿勢・平衡感覚アップといいことづくめ
噛み締める動作はスポーツや日常生活と密接な関わりがあり、ときには顎に負担をかける一方、ゴルフスイングには欠かせないものでもあるようです。
「インパクトの瞬間グッと歯を噛み締めると、ボールにより力が伝わり、発揮できる力が大きくなります。ただその前提として、歯がしっかりあり、噛み合わせのバランスがとれてしっかり噛めることが重要です。人間の噛む力は普通で70kgほど。その70kgを一番奥までの28本の歯で支えるのと、何本も失った残りの歯で支えるのとでは、それぞれの歯への負担も噛み合わせのバランスも大きく異なるからです。
噛み合わせのバランスがいいと、力の入り方だけでなく基本姿勢、平衡感覚も優れているという結果も出ています。姿勢の乱れを防止する、平衡感覚がアップするなど、ゴルフ面での副産物も計り知れません」。
噛み締めたときの大きな力を受け止める歯そのものというより、噛み合わせのバランスがとれているからこそ、インパクト時によりしっかり歯を噛み締めることができるのですね。このところ飛距離が落ちてきたという人は、一度噛み合わせのチェックをするのがよさそうです。
脳血流のアップがゴルフにもたらすメリットは計り知れない
また、噛む動作そのものにもゴルフのプレーに重要なメリットがあります。
「噛み合わせのバランスが悪いために全体の歯でよく噛めていなかった人が、矯正をして噛み合わせが均一になりしっかり噛めるようになった。このケースでは、矯正の前と後とで脳血流量が増加したという研究報告があります。認知や意思決定を担う脳の前頭連合野という領域の血流が増加するということは、ゴルフでは、認知、判断、集中がアップすると言い換えられます。ゴルフは判断力や集中力を問われるスポーツでもありますから、噛み合わせがよく、しっかり噛むのは大事なことです」。
噛む動作は、ゴルフの力を発揮するにはとても重要なことがわかりました。脳血流量が増えて判断力や集中力がアップするからです。
ゴルフのラウンドで強く歯を噛み締めた後やデスクワークで筋肉を酷使した後は、ホームケアをして、筋肉をほぐしましょう。負担を溜めずに良好な顎の状態を保てれば、顎の痛みや顎関節症の悪化を防ぐことができます。
次回は、自分でできる筋マッサージと筋ストレッチのしかたを石塚先生に教えていただきます。
【噛み合わせのまとめ】
〈顎関節症の原因〉
・歯の噛み締めすぎ
・咀嚼筋の使いすぎ
〈顎関節症の流れ〉
筋肉をよく使う
↓
炎症が起きて痛みが出る(Ⅰ型)
↓
顎関節の負担増加、蓄積
↓
顎関節部の痛み、変形、雑音(Ⅱ〜Ⅳ型)
〈噛むことのメリット〉
・ボールにより大きな力が伝わる
・脳血流量が増え判断力や集中力が上がる
〈噛み合わせがいいことのメリット〉
・大きな力を発揮できる
・姿勢の乱れを防げる
・平衡感覚がアップする
取材・文/野上雅子
撮影トーナメント/セガサミーカップゴルフトーナメント2022
撮影/相田克己
石塚忠利氏
(鶴見大学歯学部口腔顎顔面外科学講座 学部助手、医療法人社団恒成会 石塚歯科クリニック非常勤医)
2014年草加市立病院歯科口腔外科臨床研修医を経て、2015年鶴見大学歯学部 口腔顎顔面外科学講座に入局。2016年横浜労災病院での麻酔科研修を経て、2017年より鶴見大学歯学部口腔顎顔面外科学講座学部助手として口腔外科臨床および学術研究に従事する。ゴルフの造詣も深い。
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