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バックスピンでボールが戻ってくるのは、幸福か?それとも、不幸か?消耗品であるウェッジこその悩み

ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第41回

2022/10/30 ゴルフサプリ編集部 篠原嗣典

ゴルフクラブ,ウェッジ

ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。

写真提供/篠原嗣典

憧れのバックスピン。仕組みがわかれば、誰にでも可能?

ピン

「バックスピンをかける打ち方を教えてください」今から40年前の夏。僕は質問しました。
場所は、北関東にあるコースでした。関東ゴルフ連盟がコースを貸し切って行った高校生ゴルフ夏合宿で、アプローチを教わっていたときのことです。

昭和50年代後半、ジュニアゴルファーを歓迎する空気は皆無で、有名私立高校ゴルフ部でも合宿をさせてくれるゴルフコースを探すのは大変でした。打開策として、コースを貸し切りにして、いくつかの高校ゴルフが合同で合宿をしたのです。画期的だったのは、参加する意欲があれば、ゴルフ部に所属していないジュニアゴルファーも参加が可能だったことです。

僕は公立の高校に通っていて、ゴルフ部のゴの字もなかった状況でしたので、喜んで参加をしました。ちなみに、中学生だった丸山茂樹も特別枠みたいな感じで最年少参加していました。

質問を受けてくれたのは、ボランティアで指導に来ていて、たくさんのタイトルを取っていた超有名なトップアマでした。この人は、ゴルフメーカーに勤務していたこともあって、技術だけではなく、用具の知識も豊富だと評判でした。

「ちょっと、ウェッジを見せて」と、僕のウェッジを手に取って、サラッと見た後に、返してくれました。
「バックスピンをかける特別なテクニックはありません。スピンがかかりやすいウェッジとボールを使うことが、バックスピンをかける間違いのない方法になります。残念だけど、君のウェッジでは、強烈なバックスピンはかかりません」

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高校生だった僕には、衝撃的な質疑応答になりましたが、実は、かなり気が楽になったのです。色々と試した上で、上手くいかないから質問をしたことに、明確に用具だ、と教えてもらったので、下手だからではないんだ!と納得できたからです。

それから数年後に、同じような質問をトッププロにもしたことがあります。わかっているけど、確認みたいな意味と、プロが面倒くさがって適当なウソをつくかどうかを試したかったからです。
「プロでも、スピンがかかりにくいボールとウェッジでは、バックスピンはかからないよ。特にボールは重要」トッププロは正直者でした。

アプローチでは特にダウンブローに打つ、フェースを開いてカットする、などスピン量を増やすことはできますが、スピンをかけやすいウェッジとボールの前では関係ないと言い切れる程度の差しか生まれません。

ボールを選ぶときに「何を優先するか」はゴルファーによって極端な違いがあります。
飛距離性能が一番のゴルファーが多いといわれていますが、飛距離を犠牲にしてもショートゲームの性能を優先するプロみたいな上級者もいます。

多層ソリッド構造が、現在ではほぼ全てのボールの内部構造です。20世紀末、ボールの構造の大変換期が起きます。それまでの王道だった糸巻き構造のバラタカバーのボールに比べて、多層ソリッド構造のボールはバックスピンがかからないことが弱点だといわれましたが、20年以上の研究開発の結果、現在では同じかそれ以上にバックスピンがかかるボールが市場にはたくさんあります。

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ウェッジ選びは、重要なのに、適当になってしまう謎と都市伝説

ゴルフクラブ,ウェッジ,ゴルフボール

憧れのバックスピンは技術を用具が凌駕する、という真実を前にしてもなかなか認められない人もいます。その背景には、昨今の試打環境があります。

一昔前なら、特別な施設でしか調べることができなかったバックスピン量は、現在では大型のゴルフショップであれば、弾道計測が可能な試打ブースがありますし、インドアの練習場にも弾道計測ができる設備があります。購入したいウェッジに試打用があれば、何球も打って納得して買うことができるようになりました。

しかし、ウェッジの場合、これが問題なのです。人工芝のマットの上で打った結果が、現場のコースに持っていくと、全く出ないということが多発してしまうのです。

例えば、試打ブースの床は、コンクリートなどのかなり硬い素材になっています。硬い床は肘などに怪我をする原因になるからと、その上に何層も厚いゴムを重ねているところもありますが、それでも、ゴルフコースでは同じ硬さの場所が存在しないほど硬いのです。

地面が固いと、ボールの打ち出しは高くなる傾向がありますし、人工芝のマットはソールを滑らすので、抜けの感覚を確かめるのが困難になります。ボールの打ち出し角が変われば、バックスピンなどのボールスペックも飛距離も変わります。

試打ブースで打たせている試打用のウェッジだけが特別で、販売しているものと違うという都市伝説がまことしやかに流れるわけです。(実際に、違うクラブということも全くないとも言えませんが)

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また、試打ブースとコースでは、打音も変わります。

打音は、無意識でも打ち応えに影響します。無音状態を作れるヘッドフォンをして、ボールを打つと、多くの人がビックリします。打音がしないと、打ち応えが全く違って伝わるからです。
試打ブースは、天井と壁があるので打音が反響しますし、大きくも聞こえます。コースは天井も壁もないので、かなり違う音に聞こえるのですがそちらが現実なのです。

更に、もう一つの問題は、試打できるウェッジのロフトが一つだけしかないことが多いことです。
それを基準に考えれば良いと思いがちですが、ウェッジにとって2度違いは差が小さいこともある反面、違うブランドのウェッジというほどの落差が生まれることもあるのです。

乱暴な意見だと承知の上、試打しても裏切られるなら試打なんか無駄だといえますし、むしろ試打ブースでピッタリだと思ったものほど、自分に合っていないウェッジである可能性すら出てきます。

使用している人にお願いして、コースで打たせてもらうというパターンと、有料の試打サービスを使ってコースで打って決めるしかないのかもしれまん。

最後に、自分がコースで使っているボールで試打をしなければ、コースでも結果がわかってしまうのがウェッジの面白さなのです。

絶望的だと諦めるのは早計です。オススメのウェッジの選び方は、有名メーカーの評判の良いウェッジを信じて購入して、ひたすらにコースで使って、成功体験を増やしていくことです。
大事なのは、慎重に選ぶことよりも、実績で実力を判断して、慣れることと、成功体験を増やすことなのです。

バックスピンをかけるためのエビデンスのまとめ

篠原嗣典氏のスイング

ウェッジの溝が規制されるようになったのは、いわゆる角溝と呼ばれた尖った角でボールを噛んでスピンをかけるウェッジが大ヒットしたからでした。
多くのゴルファーが、角溝のウェッジで、表皮カバーがウレタンでできたボールを使って、ギュンギュンにかかるバックスピンを楽しんだのです。

グリーンに乗って、ボールをマークして、拭こうとしたときに気が付くのです。「ボールにウェッジの溝の跡が付いて、ささくれちゃったよ」困った様子なのに、多くのゴルファーは嬉しそうだったのです。

ボールが傷むから、ということでウェッジを替えたり、表皮カバーが硬いボールに替えるゴルファーも皆無でした。バックスピンというのは、麻薬的な魅力を持っている証拠です。

そして、多くのゴルファーが初めて知ったのです。ウェッジは消耗品なのだと。

ツアープロは、敏感な人だと1試合で1本のウェッジの供給を受けていて、長く使うプロでも1ヶ月が限界らしいです。溝の角が削れて、スピンのかかり方が変わってしまうからなのだそう。

角溝のウェッジも、バンカーショットなどにも使うものだとアマチュアでも15ラウンドぐらいでスピンのかかり具合が悪くなってきたと体験的に理解できましたから、ウェッジは消耗品だと知ったのです。

溝が傷んだらウェッジを新しいものにするというゴルファーは一般的にはごく少数ですが、上級者の多くは何年間も同じウェッジを使い続けません。これは、スピン量が不安定になることを嫌ってのことだと思われます。

米国では、溝の寿命を延ばすためにトップメーカーの有名ブランドのウェッジでも削れにくいステンレスを素材にしたものが販売されていますが、日本ではあまり見かけません。ミズノのウェッジが、削れにくい素材を採用しているのが目立つぐらいです。消耗品だからどんどん新しくしてね、ということなのでしょう。

溝の規制が何度があって、現在のウェッジはバックスピンがかかりにくくなっていますが、それでも時々「スゴいなぁ」と笑ってしまうほどスピンがかかるウェッジが出現します。

「プロと同じ用具が一番スピンがかかる」と知ったかぶっている意見がありますが、間違いです。ツアープロにとって戻りすぎるバックスピンは計算がむずかしいので、邪魔なのです。ツアーウェッジの多くは、落ちた場所で止まるようなスピン量を良しとして、設計されて、加工されているのです。(例外もありますが)

現在のバックスピンがかかりやすいウェッジを探すセオリーは以下です。

・キャビティバックタイプよりもマッスルバックタイプがかかる傾向がある
・やさしいといわれているウェッジがかかる傾向がある
・アプローチの場合は、ロフトは56度をピークに、58度、60度とかかりが悪くなる傾向がある
・ローバウンスはスピンがかかりにくくなる傾向がある

逆に考えている人が多いのです。だから、憧れているのにバックスピンがかからないのです。

スピンがかかりやすいボールは、ツアーモデルだというのは間違いありませんが、ボールによってかなり個性的なので、慎重に選ぶことをオススメします。スピンと名前に入っていても、安心はできないということです。

憧れのバックスピン。何ヤードも戻ってしまうボール。用具が鍵だと書きましたが、もう一つ大事な要素があります。

受けグリーンです。ツアープロが、バックスピンで戻して、ピンに絡めるというケースは、グリーンの坂に当てて戻しているのです。コースをよく知っていて、覚えていれば、どのグリーンのどこに受けている坂があるかはわかるはずです。スピンがかかるウェッジとボールで、そこを狙いましょう。クリーンにヒットさえすれば、バックスピンが…

皮肉なことに、そこまでのコントロールが可能なゴルフができるようになると、バックスピンへの憧れは薄れて、当たり前のように、坂の下で止まるように狙うのです。

禅問答のような話になってしまいました。しかし、考えてみれば、ゴルフは秋晴れのどんな空よりも高く、底なしに深いということをバックスピンは教えてくれる、というわけなのです。




篠原嗣典

篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。


ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】

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