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練習ラウンドでは話をしている時間などない?!用意周到な準備が勝負を分ける

伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.7

2023/01/01 ゴルフサプリ編集部

ゴルフ場

新連載、伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉1つ1つを、皆さんにもお届けしていく。

GOLF TODAY本誌 No.607/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司

準備を周到に行っていれば、慌てることはなくなる

ゴルフボール,グリーン

中部銀次郎さんがまだ現役だった頃のことだ。一緒に練習ラウンドをした人が言っていた。その人はあるとき出版社を辞め、田舎暮らしを始めた。私が訪ねていったとき、いろいろな話をしたが、中部さんの話にもなった。彼は当時を思い出すように話してくれた。

スタートホールから最終ホールまで一言も話さなかった。最初のティショットから最後のパットまでまったく喋らなかったんだ。スタート前は笑顔で世間話をしたのに、スタートする直前から真剣な顔になり、それが最後まで続いたんだよ。こっちは練習ラウンドにくっついて話を聞くつもりだったのだけれど、まったくできなかった。できる雰囲気じゃなかった」

私は引退した後の中部さんしか知らない。小料理屋でにこにこ笑いながら、店の主人や常連客と話をしている柔和な中部さんしか知らないのだ。その人の話では怖いくらいの顔をして練習ラウンドをしていたわけで、私は想像すらできなかった。

別に取材が嫌だとか、話をするのが嫌だということじゃなかったと思う。中部さんにとってゴルフは真剣にやるもので、遊びではなかったということ。競技者としては当然だったのかもしれないが、それにしてもただの一言も発さなかったんだ」

競技をしているトップアマでもトーナメントプロであっても、一緒に回っている人とは話をする。練習ラウンドではゴルフとまったく異なるプライベートなことまで話をしていることも多い。

本番の試合だって、喋ることはあるだろう。相手がいいショットを打てば「ナイスショット!」と褒めることは当たり前。ところが中部さんは一言も口をきかなかったのだ。その人は言う。

「こっちもたまにはいいショットを打つこともあった。でも何も言ってくれない。ドライバーショットでフェアウェイセンターに飛ばしたときも、セカンドショットでグリーンに乗せたときも、アプローチでOKに寄せたときも、長いパットを決めたときだって何一つ言わない。正直驚いたよ」

私はそのとき、中部さんは何か気になること、テーマがあって真剣にプレーしていたのだと思った。または年齢が嵩んで現役生活がさほど長くないことを悟っており、残されたチャンスに真剣に挑もうとしていたのかと推測したものだ。

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練習ラウンドにはチェックポイントがたくさんある

イラスト

ところがその後、倉本昌弘選手の練習ラウンドに度々つくようになって気付かされたことがあった。倉本選手はキャディを連れて黙々と練習していて、私はラウンド中には話を聞くことは諦め、ラウンド後にしようと思った。

ラウンド後、クラブハウスのレストランで私は尋ねた。「ラウンド中は倉本さんに話しかけることなどできませんでした。とても真剣だったので」

すると彼は言った。「何も真剣だったというわけじゃない。試合ではないからね。でも、練習ラウンドは試合とは違うことですることがたくさんある。各ホール、どんなホールかを入念にチェックする必要がある。

ホール図を見ながら、実際のホールを見て、ティショットからどんなクラブを使い、どこに落とすか。それもどんな弾道で打ったらよいか。

ティーイングエリアはどんなか、どんな風が吹くことがあるか。セカンド地点はどんなライか。フェアウェイバンカーの形状や砂はどんなか、ラフはどれくらいの長さでどんな芝か。風は吹くとすればどんなか。

グリーン周りもチェックする。ガードバンカーや池だけでなく、危険なエリアはあるか。崖とかOBとか、見えないところもチェックする。グリーンのフロントエッジまでは何ヤードか、バックエッジまでまでは何ヤードか。グリーンを外すとすればどこがいいか。

こうしてグリーンを狙うクラブとショットを考える。グリーン周りではバンカーの傾斜や砂の様子。ラフの長さや向き。寄りやすいエリアと寄りにくいエリアをチェックする。実際にアプローチもしてみる。

最後にグリーンを細かくチェックする。想定されるピンの位置。最低でも4日分の4箇所を考える。そうしてグリーンの状態や傾斜などを見て、どんなコロがりをするか練習パットをするわけだ」

ここまで一気に話されて私は唖然とする。私たちの練習ラウンドとはあまりに違う。倉本選手は笑う。「チェックすることがとても多いということ。ひとつのショットを打つのにもたくさんのチェックポイントがあるわけで、それを練習ラウンドで事前にチェックしておく。

そうすれば本番の試合で慌てずに済む。用意周到に準備をすればするほど、本番の試合で正しい選択を行える。

最悪なのは準備を怠って予想外のミスをすること。ナイスショットを放っているのに、結果が良くないことだ。そんなことでは勝つことはできない。だから、練習ラウンドでは話をしている時間などないんだよ」

ゴルフの怖さを知っているからこその言動

中部銀次郎

こうしたことの積み重ねで倉本選手は永久シード選手になれたのだと思った。凄いショットを打つからなれたのでは決してないのだ。倉本選手は言う。

「何も不思議がることはないよ。難攻不落のコースで、しかもシビアなコースセッティングがなされるとすれば、当然のことだよ」

本場アメリカのPGAツアーで戦ってくればそうした準備は当たり前になるのだろう。マスターズやUSオープンなどのメジャーでは、それこそそうした準備が勝負を分けると言ってもいいのだろう。

そして、現役時代の中部さんもきっと同様だったのだろう。練習ラウンドでチェックすることがあまりに多く、話しているどころではなかったのだ。上級者になればなるほど、トップアマになればなるほど、トッププロになればなるほどゴルフの怖さを知っている。

ほんの些細なミスが傷口を開き、大きなミスに繫がることを。そして勝利が逃げていくことを知っている。だからこそ準備を周到に行うのだ。

中部さんは言う。「勝利はわずか1打の差で決まる。2位に1打優れば勝てるし、1打及ばなければ負ける。それがゴルフという競技だ。4日間プレーするとなれば仮にパー288として、そのどの1打とても気を許すことなどできない。

誰もが勝負所で良いショットが打てたかどうかばかりを取りあげたりするが、プレーしている当事者はどのショットも大事であることを知っている。しかもどのショットのミスが負けの原因になったかを知っているのです」

中部さんが残した言葉がある。「余計なことは言わない、しない、考えない」

これは集中力を高めるため、無欲無心になるための言葉だろう。しかし、実際の中部さんは自然とそうしたことはできていたに違いない。

用意周到な準備をすれば、自ずと目の前の1球だけに集中できたのだと思う。つまり、この格言は一般ゴルファーに向けた言葉だったのだと私は思っている。


中部銀次郎

中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)

1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。

甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。

著者・本條 強(ほんじょう・つよし)

1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。


伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」

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