完璧なショットは1ラウンドに1回もあればいい!! ラウンド中にミスの原因を考えてはいけない理由とは?
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.19
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉一つひとつを、皆さんにお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.619/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司
「ゴルフでは自分を信じ続けること」
中部銀次郎さんが「ゴルフの神様」のように讃えられるのは、日本アマチュア選手権に後にも先にも誰も成し得ていない6回の優勝を果たしたからからではない。ゴルフというゲームにおいて、いかにすれば今よりも良いプレーができるかを絶えず模索し、真剣に考え続け、それが言葉となって遺されたからに他ならない。
その言葉は亡くなってから一層光り輝き、アマチュアゴルファーの心を捉える。仏陀やキリストの言葉のように、生きる支えとなる言葉である。中部さんが遺した福音となる多くの言葉の中で、私が最も心の拠り所としているのが、「ゴルフでは自分を信じ続けること」の一言である。
ゴルフはミスのゲームである。プラスハンデの中部さんとて、ミスをすることはある。もちろん、我々のような酷いショットはないが、「完璧と思えるショットは1ラウンドに1回もあればいいほうだ」と語っている。となれば、起こるべくして起きたミスをどう受け止めるか対処するかが、ゴルフをする者として最も重要な心構えになろう。
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そのことを中部さんに問うと、真剣な顔で答えてくれる。
「ミスはしようと思わなくても起きます。思わぬミスは頭が白くなり、背中に冷たい汗が流れます。動揺が心に表れる。だから、次のショットもミスをすることになる。それも動揺が収まっていなければ、さらに酷いミスになる。ミスがミスを招くのもゴルフというゲームなのです。ですからミスは一度で終わらせなければいけない。
それができるのが上級者です。連続ミスをしてしまうのがアベレージゴルファーなのです。この間には深い川が流れている。上級者になるのはこの川を渡らなければならない。自分で橋を架けて、川を渡って、次は良いショットをすること。それができるようにならなければいけません」
ミスの原因は考えたって仕方ない
とはいえ、それができないからいつまでもアベレージゴルファーのままなのである。
「ミスをすると、誰でも技術的な問題だと思い、それを解決しようと思いますよね。頭が早く上がった、頭が動いた、肩が下がった、肩が上がった、ヒザが動いた、手首が硬かったなど、いろいろなことを考えますよね。私からすれば考えたって仕方ないのです。
ミスの原因は一つでなく、いくつかが複合していることもある。だから、ミスの原因は考えない。基本に立ち戻るだけです。いつものようにきちんとアドレスして、ボールを良く見て、頭を動かさずに振り抜くだけです。それも力まずにスムーズにフィニッシュまで振り抜くこと。前のミスショットのことは考えない。つまり余計なことは何も考えないことです」
「下手の考え休むに似たり」なのである。「そのラウンドで同じミスが繰り返されたとしても、ラウンド中は何も考えない。ラウンド後に練習場でじっくり考えてショットを行うことです。ラウンド後の練習では、まずはラウンドで起きたミスショットを敢えてやってみることです。つまり、そのミスショットが出るように打ってみる。
こうしてからそのミスショットがどうして出たかを考える。原因を考えたら、それが起きないようにスイングする。それでも起きたら別に原因があるわけで、それをさらに考えてミスが出ないように打ってみる。こうしてミスが出なくなるまで行います。これがラウンド後の練習というもので、私は毎ラウンド、それを行っていました」
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これぞ中部流
ラウンド中はミスの原因は考えない。基本に立ち戻るだけ。ミスの原因追及はラウンド後に行って解決しておく。それが中部流なのである。
「しかしながら、ミスショットが出た後にするべき最も大事なことは技術的なことではありません。精神的な修復が最も大事なのです。ミスをすればがっかりします。酷いミスなら尚さらで、怒りさえ覚えます。怒れば自分を見失うし、意気消沈すれば自分が小さくなってしまう。ミスが重なればどんどん小さくなって、最後には自分の存在さえ消えてしまうかのようです。
だからこそ、ミスをしたときには、自分を信じることです。ミスをしても慌てずに大きく深呼吸する。脈拍を通常に戻して、頭を正気にして、心の動揺をなくす。それから目標を決めて狙いを絞り、『今度のショットは必ず上手く打てる』と自分に言い聞かせるのです。このときに結果は考えない。何も考えずにボールを打つことなのです」
しかし、このショットがまたミスショットになったらどうしたらいいのか。アベレージゴルファーなら大いにあることだ。
アベレージゴルファーが行う最も大事なこと
中部さんは笑いながら言う。
「その答えは簡単です。同じことを行うのです。ボールのところに行ったら、大きく深呼吸。そして『今度こそ上手く打てる』と自分を念じて、目標を定めて打つことです。
そのショットまでミスしたとしても、同じことを行う。ミスショットと自分を信じることの我慢比べです。根負けしてはいけません。
こうして『今度こそ上手く打てる』と念じ続ける。つまり、どんなにミスショットしても自分を信じ続けるわけです。こうして、最後の最後に上手く打てれば、それが自信になるのです。アベレージゴルファーが行う最も大事なことです」
再び中部さんは真顔に戻る。
「自信とは『自分を信じ続けること』なのです。自分を信じ続けるだけでいいのです。いくらミスをしようが、自分を信じ続ける。自分を信じてやれるのは自分だけなのです。
ですから、自分が自分を裏切ってはいけない。自分を疑ったり、自分を貶したり、侮ったりしてはいけない。真剣にゴルフに立ち向かわないといけない。それには『このショットは上手く打てる』と信じ込んで打つだけなのです。自分にできるのはそれだけです。そうすれば、意気消沈している暇はないし、怒ってなどいられない。いつでも前を向いてプレーしている自分がいる。
となれば、ミスショットの数など関係ない、スコアなどまったく関係なくなります。ミスしてもミスしても前を向いてプレーする。そんなガッツあるあなたに周りの人は皆、惜しみない賞賛を送るでしょう。例え周りが褒めなくとも、あなたがあなた自身を褒めればいい。ラウンド後、『今日は頑張った』『今日は耐え抜いた』と自分自身を褒めて上げればいい。それが大事なのです」
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中部さんは締めくくってくれた。
「『自信』というものは、ゴルフショップでは売っていません。自分自身で手に入れなければならないのです。それにはへこたれずに自分を信じてプレーすること。それを続けるうちにミスが減りナイスショットが増えていく。
自信がどんどん大きくなります。『ゴルフをやり続けて良かったな』と思えます。それこそがゴルフというゲームをする意義なのです」
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)
1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。
甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。
著者・本條 強(ほんじょう・つよし)
1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。
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