ゴルフクラブの選び方|超基本ギア用語講座Vol.9【ゴルフクラブに使われる素材】
知らないと、クラブ選びで失敗しちゃうかも!
「慣性モーメント」、「重心アングル」などなど、いろんなギア用語を目にするけれど、そんなこと知らなくたってゴルフ場では困らない! どうせ新製品を売るためのセールストークでしょ、と思っていませんか? そんなことはありません、ゴルフクラブの基礎知識を持っていれば、クラブ選びの失敗がなくなるだけじゃなく、飛びも方向性もスコアだってよくなっちゃうんです。そんな、クラブ選びにもスコアアップにも役に立つ、超基本ギア用語をお届けします。
ゴルフクラブ基礎知識講座【ゴルフクラブに使われる素材】
Q.シャフトに使われているボロンって何?
A. ホ〇素のこと。
ゴルフクラブに用いられる素材を知ろう!
ボロンは元素の名前なのでそのまま素材の名前ですが、日本語ではホウ素です。最近ではサプリメントにも使われています。ゴルフギア用材料としては、カーボン繊維と共に主にシャフトに使用されます。
ボロン繊維
ボロン(ホウ素)単体では繊維状に加工することが難しいので、タングステン線の表面にホウ素を蒸着させて繊維状にします。強度と弾性にすぐれ、鋼(はがね)より軽いが、カーボンよりは重い。単体ではなくカーボンを主体としたものに複合してシャフトに使用されます。
その他の主なシャフト用素材とは!?
スチール(鋼)
今ではウッド用シャフトはカーボンが主流ですが、アイアン用シャフトはいまだにスチールが主流です。カーボンに比べて重くなりやすいが、カーボンより安価なことがメリットです。
カーボン
クラブやシャフトに使用される材料の場合は主に炭素繊維をカーボンと呼びます。シャフトの他にウッド系ヘッドにも使用される素材です。正式な呼称はCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)になります。カーボン繊維に樹脂を含侵してシート状にしたのちに成形し、熱を加えて樹脂を硬化させシャフトやヘッドのパーツを製造します。
鋼(鋼)と比較して軽量かつ高強度・高弾性が特徴です。シート状にして樹脂を含侵したものはプリプレグと呼ばれます。
アラミド繊維(ケブラー)
引っ張り強度にすぐれる合成繊維。しなやかで、切断しにくい特性から、防弾チョッキにも使用されます。カーボンを主材にしたシャフトに複合して使用されます。この場合、振動減衰効果もあるとされています。ちなみにケブラーはデュポン社の登録商標です。
銅箔、チタン箔等の金属箔
カーボンより比重が重いことを利用して、シャフト単体のバランスポイントを変化させる目的で使用されることが多い素材です。手元側に使用すればカウンターバランスに、先端側に使用すればシャフト単体のバランスが上がるので、軽量シャフトに交換した際にバランスが軽くなることを防げます。
ナノアロイ
プリプレグの樹脂に使用されます。カーボン繊維と樹脂とのなじみが良くなるため、低レジン化と同時に強度、靭性が高まります。ナノアロイは東レの登録商標。
※低レジン化
カーボン繊維をシャフトやヘッドパーツに成形する際に含まれる樹脂の量を少なくすること。少ないほどカーボンの持つ特性がより引き出されると同時に軽量に仕上がります。
PAN系カーボンとピッチ系カーボン
カーボン繊維はその名の通り炭素でできた繊維ですが、その原料によってPAN系とピッチ系に分類されます。PANは「ポリ アクリル ニトリル」の頭文字をとったもの、ピッチは原油やコールタールを蒸留した後に残る樹脂のことです。出来上がったカーボン繊維の特性も異なり、PAN系は軽量・高強度。ピッチ系は軽量・高剛性となります。現在シャフト用としてはPAN系が主流です。
高弾性ってなに ?
弾性は変形しにくさを示します。だから、高弾性=曲がりにくい(しなりにくい)ということです。
「××トンの高弾性」との表現を目にしますが、これは一定量変形させるのに何トンの力が必要かということを示します。だから、数字が大きいほど、高弾性=曲がりにくいということになります。
ただし、これは素材の強さの話なので、高弾性を使ったシャフトは“硬い”ということではありません。高弾性カーボンを使用すれば、一定の曲げ剛性=フレックス(硬さ)を持たせるのに必要な材料の量(重量)を減らすことができます。だから軽量シャフトを作りやすくなります。また、重量が減った分を他の目的に使えば、より、自由な設計ができるようになるわけです。
6-4チタンの6-4って何のこと ?
Ti-6Al-4Vというのが正式な表記です。チタン90%にアルミ6%、バナジウム4%からなるチタン合金という意味です。ゴルフクラブにおいても他用途でも、最も一般的に使用されているチタン合金が、この6-4チタンです。
8-1-1チタン
6-4チタンとともに、最近、カタログでよく見かけるチタン合金です。Ti-8Al-1Mo-1V(チタン90%、アルミ8%、モリブデン1%、バナジウム1%)になります。6-4チタンより比重が軽いので使用されることが増えています。この他10-2-3とか15-3-3-3もチタン合金の組成を指しています。
βチタン
チタン合金は、金属組織の結晶構造の違いで、α型、β型、α+β型に分けられ、βチタンはβ型をさします。α型チタンは加工しづらいため、ゴルフクラブにはβ型またはα+β型が使用されます。ちなみに6-4チタン、8-1-1チタンはα+β型、15-3-3-3はβ型です。
β型チタンは熱処理によって強度を高めやすく、また弾性率が低い(たわみやすい)ことから、高反発ヘッドのフェースに使用されることが多かったのですが、高反発規制以降はα+β型が主流になっています。
純チタン
純度が高いチタンで不純物は1%程度以下です。JIS規格では含まれる不純物の含有量で1種から4種に分類されますが、共通して言えるのはチタンだから軽いけれど、案外と軟らかく伸びもあり、同じサイズであれば強度はステンレスとあまり変わらないこと。チタン合金に比べて、強度は低いが加工しやすいというメリットがあります。
クラブヘッドに用いられるその他の素材
チタン合金以外でクラブヘッドに使用される主な材料は、鋼(はがね)、アルミ、タングステン、カーボンがあります。その中で最も使用され、その種類が多いのは鋼です。
軟鉄(低炭素鋼)
軟鉄は炭素鋼の中で炭素の含有量が0.25%以下の低炭素鋼を一般的に軟鉄と呼びます。軟鉄と文字で書くと“すごく軟らかい鉄”というイメージがありますが、クラブヘッドに使用されるのは炭素含有量が0.2〜0.25%なので、軟鉄の中では最も硬い部類のものになります。もっと軟らかい軟鉄もありますが、炭素含有量が低すぎると、スコアリングラインがすぐにつぶれてしまうとか、使用しているうちにネックが曲がってしまうとか、研磨する時に素材自体が軟らかく伸びるので削りにくくなるなど、耐久性と加工性を勘案すると0.2〜0.25%がゴルフクラブに適度な硬さということです。
S25CとかS20Cって?
炭素鋼を表す記号で数字は炭素含有量を示しています。S25Cなら炭素含有量は0.25%です。
マレージング鋼
マルエージング鋼というのが本来の呼び方です。炭素含有量が低い鉄にニッケルやクロム、モリブデンなどを含む鋼材をマルテンサイト化した後に、エージング(時効)処理をした特殊鋼のことなのでマルエージング鋼です。鋼は強度を上げると脆くなりやすいのですが、強度と靭性を併せ持つのがマレージング鋼の特徴です。ただし、ステンレスやチタンと違い錆びる特性も持っています。
ステンレス鋼
鉄を主成分にクロムまたはクロムとニッケルを含む合金鋼。強度が高く錆びにくいことが特徴です。18-8ステンレス、17-4PHステンレスはゴルフクラブ以外にも一般的に使用されているステンレスです。18-8とか17-4の数字はクロムとニッケルの含有量を示しています。JIS規格によるそれぞれの表示は、18-8=SUS304、17-4=SUS630となります。SUS630は熱処理によって硬度を上げられる特性を持っています。ちなみにパターに使用されるSUS303というものがありますが、これはSUS304に硫黄を添加し切削性を高めたものです。
タングステン
硬度は9、比重は鉄の約2.5倍と非常に硬くて重い金属です。鉄との比重差を利用して、ウェイトとしてゴルフクラブに使用されます。ただし金属の中で融点が最も高いので、粉末にして他の金属の粉末と混合して、焼き固めるという加工法で成形します。また、粉末をゴムや樹脂に混ぜるという使用方法もあります。
材料から設計者の狙いが推察できる
今回は、ゴルフクラブに使用される素材とその特性を紹介しました。素材の名前や特性を見るだけでは「ふ〜ん」そうなのね。という方がほとんどではないでしょうか。しかし、クラブメーカーがカタログやホームページで、こんな構造でここにはこんな素材を使っています。とアピールするのは、その組み合わせが“性能”を生んでいるからです。
見方を変えれば、素材の特性を知っていると、設計者がなぜこの素材を選んだのか、なぜそこに使ったのかその理由を覗き見ることができるわけです。もちろん材料だけで分かるわけではありませんが、ヘッドの慣性モーメントや重心位置に加えて構造と材料が分かれば、そのクラブにどんな性能を与えようとしたのかを推察できます。その上で、試打やクラブ選びをすれば、自分に合ったクラブを選べるだけではなく、クラブ選び自体が楽しくなるはずです。
ゴルフクラブ基礎知識Vol.9まとめ
・カーボン繊維にはPAN系とピッチ系があり原料と特性が違う
・高弾性とは変形しにくいということ
・クラブヘッドに使用されるのはチタン合金
・ヘッドに使用される軟鉄は軟鉄の中では最も硬い部類のもの
・素材の特性が分かると、設計者の意図をうかがい知ることができる
文
大塚賢二(ゴルフトゥデイ編集部)
1961年生まれ。大手ゴルフクラブメーカーに20年間勤務。商品企画、宣伝販促、広報、プロ担当を歴任。独立後はギアライターとして数多くのギアに関する記事を執筆。現在はギア担当としてゴルフトゥデイ編集部に籍を置く傍ら、有名シャフトメーカーのフィッターとして、シャフトフィッティングも行っている。パーシモンヘッド時代からギアを見続け、クラブの開発から設計、製造に関する知識をも有するギアのスペシャリスト。
【関連】
・ゴルフクラブの選び方|初心者向け基礎知識をクラブ種類別に解説
【シリーズ一覧】
●Vol.1:超基本ギア用語講座【ロフト】
●Vol.2:超基本ギア用語講座【スピン】
●Vol.3:超基本ギア用語講座【バルジとロールとギア効果】
●Vol.4:超基本ギア用語講座【慣性モーメント】
●Vol.5:超基本ギア用語講座【重心とスイートスポット】
●Vol.6:超基本ギア用語講座【フレックス編】
●Vol.7:超基本ギア用語講座【バランス(スイングウェイト)編】
●Vol.8:超基本ギア用語講座【高反発と飛びの3要素編】
●Vol.9:超基本ギア用語講座【ゴルフクラブに使われる素材】