ゴルフクラブの選び方|超基本ギア用語講座Vol.4【慣性モーメント】
知らないと、クラブ選びで失敗しちゃうかも!
「慣性モーメント」、「重心アングル」などなど、いろんなギア用語を目にするけれど、そんなこと知らなくたってゴルフ場では困らない!どうせ新製品を売るためのセールストークでしょ、と思っていませんか?
そんなことはありません、ゴルフクラブの基礎知識を持っていれば、クラブ選びの失敗がなくなるだけじゃなく、飛びも方向性もスコアだってよくなっちゃうんです。そんな、クラブ選びにもスコアアップにも役に立つ、超基本ギア用語をお届けします。
ゴルフクラブ基礎知識講座【慣性モーメント】
Q.慣性モーメントって何?
A.〇〇運動のしやすさ(しにくさ)を示すもの
「慣性モーメント」。今では、ゴルフクラブを語るうえで、必ずと言っていいほどポピュラーに使われる用語ですね。各社とも新製品を発売すると「慣性モーメントを拡大し・・・・・・・」とか「タングステンウェートを複合することで、慣性モーメントを拡大・・・・・・」と言うように、ゴルフクラブ用語としては、日常的に使われています。
慣性モーメントとは、回転のしやすさ(しにくさ)を示すもの
慣性モーメントの“慣性”は、物体が外力を受けないとき、静止しているものは静止し続け、運動しているものはその運動をし続けるという性質を示す単語です。これに、回転を生じさせる力を示す“モーメント”がくっつくと、回転運動の慣性ということになります。慣性モーメントが大きければ、回転している場合は“止まりにくく”、静止している場合は“回しにくい”ということになります。
キャビティはヘッドの慣性モーメントを高めるためのデザイン
大きさと形状が全く同一のものであっても、軽ければ回転させやすく、重ければ回転させにくいということは簡単に想像できると思います。ところが、図1のように総重量は同じでも、回転軸の遠くに重量が配置されている場合と回転軸の近くに重量が配置されている場合では、慣性モーメントが変わります。前者は慣性モーメントが大きくなります。
ゴルフクラブのヘッドの場合は、重量をヘッドの外側に振り分けた設計にすると慣性モーメントが大きくなるということです。
クラブヘッドの慣性モーメントには、3つの種類がある
クラブヘッドの慣性モーメントと言った場合、一般的にはソールを下にしてヘッドを置いた状態で、地面と垂直な回転軸に対する慣性モーメントを指します(フェース左右方向の慣性モーメント)。このほかにも、フェース上下方向の慣性モーメントとネック軸周り慣性モーメントもあり、これら3つが打球の打ち出し方向や初速に影響します。
それでは、3つの慣性モーメントはどのように、打球に影響を与えるのでしょうか?
フェース左右方向の慣性モーメントはボール初速と球の左右の打ち出し方向に影響する
フェース左右方向の慣性モーメントの大小によって、打点がトゥまたはヒールに“ズレ”てミスヒットした場合に、ボールの初速と打ち出し方向が変わります。
慣性モーメントが大きいほどヘッドは回転にくく、慣性モーメントが小さいとヘッドが回転しやすくなりますから、図3のように、トゥ側でミスヒットしたときでも慣性モーメントが大きければ、フェースの向きが変わりにくくなります。また、インパクトでヘッドの回転が大きくなると、インパクトのエネルギーがヘッドの回転に浪費されますから、ヘッドの回転は小さいほど、ミスヒットのボール初速の低下が少なくて済む=飛距離のロスが少なく、方向安定性も高いというわけです。
もし慣性モーメントが十分に大きく、ミスヒットしても、まったく回転しないヘッドがあったとしたら、ボールは壁に衝突したのと同じになりますから、打ち出し方向のブレも、ボール初速の低下もなくなります。ただし、現状はヘッドの慣性モーメントの上限がルールで定められていますので、まったく回転しないヘッドは使用できません。
フェース上下方向の慣性モーメントはボール初速と球の上下の打ち出し方向に影響する
フェース上下方向の慣性モーメントの大小で、打点がフェースの上下にズレたときの、打ち出し高さとボール初速が変化します。
図4の視点から見ると、打点が上下にズレた場合にフェース上下方向の慣性モーメントの大小と、球の打ち出し高さと初速の変化が分かります。打点がフェースの下にズレれば、ボールの打ち出し角度は低くなり、また、ヘッドが回転した分だけエネルギーロスが起こり、ボール初速が低下しますが、フェース左右方向の場合と同様に、フェース上下方向の慣性モーメントが大きいほど、打出し角度の変化とボール初速の低下は少なくなります。
また、打点が左右にズレた場合も、上下にズレた場合にも、ヘッドの回転が起こると、ウッド型クラブでは“ギア効果”が発生します。ヘッドの回転が小さいほど、ギア効果によるスピンの発生が少なくなりますから、ヘッドの慣性モーメントが大きいほど、方向もボール初速も安定するわけです。
※ギア効果は
ゴルフクラブの選び方|超基本ギア用語講座【バルジとロールとギア効果編】
をご覧ください。
ネック軸周り慣性モーメントは、インパクトのフェース向きに影響する
3つ目の慣性モーメント“ネック軸周り慣性モーメント”の大小で、スイング中のヘッドがターンするスピードが変化します。
フェース左右慣性モーメントが大きくなると、ネック軸周り慣性モーメントも大きくなる傾向がある。
図のようにシャフトを台の上に乗せ、ヘッドだけを台の外に垂らした時に、垂直な線とフェースが作る角度が重心角。
ネック軸周り慣性モーメントが大きいと、スイング中にヘッドがターンするスピードがゆっくりになります。図1の左のイラストと同様と考えてください。いわゆるヘッドの直進性が高いということですが、ヘッドがターンするスピードはゴルファーとの相性があります。
スイング中のヘッドのターンが大きい人がネック軸周り慣性モーメントの大きいヘッドを使用すると、インパクトでフェースの向きをスクエアに戻し切れずにフェースが右を向いてインパクトしてしまう。あるいは、戻し過ぎてフェースが左を向いてインパクトを迎えてしまい、方向が安定しないということが起こります。
フェース上下左右方向の慣性モーメントは、大きいほど“やさしい”と言えますが、ネック軸周り慣性モーメントは人それぞれに相性がありますから“スクエア”にインパクトしやすいものを選ぶ必要があります。ただし、年々ドライバーのネック軸周り慣性モーメントは、大きくなっている傾向にあります。
そこで、最新のヘッドの特性を生かすためには、ヘッドのターンを少なくする必要があり、最近ではツアープロのスイングにもそういった傾向が見受けられます。このときに、ボールのつかまりを左右するのが重心角です。
球のつかまりを左右する重心角
スイング中にヘッドには遠心力がかかり、ヘッドの重心はシャフトの延長線上に引っ張られます。重心角が大きいとこの作用でフェースが自然と左にターンする動きが起こります。
一般的には、重心がヘッドの奥にあるヘッドは重心角が大きく、重心の位置がフェースに近いヘッドは重心角が小さくなる傾向があります。慣れれば図6のようにクラブを置いて見れば肉眼でも重心角の差は分かります。
また、最新クラブの中にはソールに付いた、スライド式ウェイトや、ウェイトの入れ替えで重心角を調整できるモデルもありますので、この機能を利用するのもいいでしょう。
フェース上下左右方向の慣性モーメントが大きいクラブの中から、自分に合ったつかまりのクラブを重心角で選ぶというのが、やさしく飛ばせる最新クラブを見つけるコツと言えます。
ゴルフクラブ基礎知識講座 Vol.4 まとめ
・フェース左右方向の慣性モーメントで、ボールの打ち出し方向と初速が変化する。
・フェース上下方向の慣性モーメントで、ボールの打ち出し高さと初速が変化する。
・フェース上下左右慣性モーメントの大小でギア効果によるスピンが変化する
・ヘッドの慣性モーメントは年々、大きくなる傾向
・ネック軸周り慣性モーメンドの大小でヘッドがターンするスピードが変化する
・重心角の大小で球のつかまりが変化する
文
大塚賢二(ゴルフトゥデイ編集部)
1961年生まれ。大手ゴルフクラブメーカーに20年間勤務。商品企画、宣伝販促、広報、プロ担当を歴任。独立後はギアライターとして数多くのギアに関する記事を執筆。現在はギア担当としてゴルフトゥデイ編集部に籍を置く傍ら、有名シャフトメーカーのフィッターとして、シャフトフィッティングも行っている。パーシモンヘッド時代からギアを見続け、クラブの開発から設計、製造に関する知識をも有するギアのスペシャリスト。
【関連】
・ゴルフクラブの選び方|初心者向け基礎知識をクラブ種類別に解説
【シリーズ一覧】
●Vol.1:超基本ギア用語講座【ロフト】
●Vol.2:超基本ギア用語講座【スピン】
●Vol.3:超基本ギア用語講座【バルジとロールとギア効果】
●Vol.4:超基本ギア用語講座【慣性モーメント】
●Vol.5:超基本ギア用語講座【重心とスイートスポット】
●Vol.6:超基本ギア用語講座【フレックス編】
●Vol.7:超基本ギア用語講座【バランス(スイングウェイト)編】
●Vol.8:超基本ギア用語講座【高反発と飛びの3要素編】
●Vol.9:超基本ギア用語講座【ゴルフクラブに使われる素材】