ゴルフクラブの選び方|超基本ギア用語講座Vol.7【バランス(スイングウェイト)編】
知らないと、クラブ選びで失敗しちゃうかも!
「慣性モーメント」、「重心アングル」などなど、いろんなギア用語を目にするけれど、そんなこと知らなくたってゴルフ場では困らない! どうせ新製品を売るためのセールストークでしょ、と思っていませんか? そんなことはありません、ゴルフクラブの基礎知識を持っていれば、クラブ選びの失敗がなくなるだけじゃなく、飛びも方向性もスコアだってよくなっちゃうんです。そんな、クラブ選びにもスコアアップにも役に立つ、超基本ギア用語をお届けします。
ゴルフクラブ基礎知識講座【バランス(スイングウェイト)編】
Q.バランス(スイングウェイト)に関する下記の記述の〇を埋めてください。
A.バランス(スイングウェイト)を示す記号でC9はB9より〇い。
バランスは「軽い・重い」で表現します。これはご存知も方の多いでしょう。では、CはBより軽いのか、重いのか、わかりますか? 答えは、重いでした。
ゴルフクラブのバランスを示す記号は、
A0 A1 A2 A3 A4 A5……D0、D1、D3、……
といったようにアルファベットと数字の組み合わせになっています。A→B→C→Dと順に重くなり、アルファベットそれぞれに0〜9の数字で細分化されています。
バランス計は1900年初頭にスチールシャフトの一般化と同時に開発され、多少の違いはあるものの、現在とほぼ同一の測り方とバランスの表示となっていました。日本のゴルフ黎明期にはゴルフ道具はすべて海外からの輸入でしたから、日本に入ってきた当初から、バランス表示は現在と同じというわけです。
今も昔もD0前後が標準的なバランスとなっています。なぜD0前後が標準的なのかというと、「バランス計を開発したときにそのように決めた」ということのようです。当時標準的に使用されていたシャフトと長さで、多くの人が振りやすいと感じていたスペックのバランスをD0と決めたのか、バランス計を作って測ってみたら、多くの人が振りやすいと感じていたスペックがD0だったのかは分かりませんが、いずれにしても“D0”に決めたということです。
バランスとスイングウェイトという二つの呼び方がありますが、前者は日本で一般的な呼び方、海外ではスイングウェイトが一般的です。ユーティリティとハイブリッドの違いと同じですね。
バランスは振ったときの重さを測ろうとしたもの
クラブの総重量もバランスも“はかり”を使用して計測しますが、測り方が異なります。総重量は単純にクラブ全体の重さを計測するのに対して、バランスはシャフトを水平にしてグリップを握ってクラブを持ったときに感じる重さをテコの原理を利用して測ります。
メジャーと秤と電卓があれば、バランス計が無くてもバランスは分かる!
グリップエンドから14インチを支点にしたときにグリップエンドが押し上げられる力は、支点からクラブのバランスポイントまでの距離×総重量と同じです。バランスD0はこの値が213.5インチ・オンスと定められていて、バランス1ポイントにつき1.75インチ・オンスずつ増減します。重さをグラムからオンスに、長さをセンチからインチに換算し、クラブの総重量とグリップエンドからバランスポイントまでの長さをはかれば、次の表を使って、そのクラブのバランスがわかります。
バランス=振ったときの重さなのか?
バランスは海外ではスイングウェイトですから、もともとは振ったときの重さを規格化しようというものです。バランス計が作られた当時はスチールシャフトが一般化したときなので、シャフトの重量はほぼ一定でした。シャフトの重量がほぼ一定であれば、同じ長さのクラブでバランスの違いはヘッド重量の違いと連動しますから、バランスが重ければ振り心地も重いという具合にバランス≒振り心地でOKでした。ただし、バランス計が開発されたのは振り心地を比較するというより、クラブを製造する際に均質に作るとか、セット内の振り心地を統一するのが主目的だったと考えられます。
現在ではカーボンシャフトが開発され、ウッド用では30g台から90g台、アイアン用は40g台から130g台までシャフト重量に大きな差があります。シャフト重量の差が大きくなるとバランスが同じD0であっても振り心地は同じにはなりません。
例えば130g台のスチールシャフトを使った5番アイアン(38インチ)の総重量は415g程度になります、シャフトを40g台のものに替えると総重量は325g前後です。この二つのバランスをD0で合わせたときに、カーボンシャフトの方は総重量が軽くなったぶんヘッドを少し重くする必要があるので、これが20gだったとしても、総重量の差は70gくらいになります。
つまり総重量415gのバランスD0と総重量345gのバランスD0は同じ振り心地なのかということになります。当然、後者の振り心地の方が遥かに軽く感じるはずです。バランスを合わせて、振り心地を合わせられるのは、同じ重量のシャフトを使用した時に限られるということです。
振り心地はグリップエンドを支点としたときのクラブの慣性モーメントの方が適切だが
シャフト重量が変わるとバランスが同じでも“振り心地”が変化することは分かりました。ではどうすればよいかというと、慣性モーメントが適切だろうと考えられます。ヘッドの慣性モーメントでおなじみの単語ですが、モノの回転しやすさ(しにくさ)の度合いを示すのが慣性モーメントですから、グリップエンドを支点としたときのクラブの慣性モーメントが“振り心地”を示すはずです。
シャフトの重量が変わってもグリップエンドを支点としたときのクラブの慣性モーメントが同じであれば“振り心地”は同じになるはずです。グリップエンドを支点としたときのクラブの慣性モーメントは図で示すようにクラブのバランスポイント(重心)を中心とした慣性モーメントとクラブ重量とグリップエンドからバランスポイントまでの距離で決まります。
ここで二つの問題があります。
一つめは、バランスポイント(重心)を中心とした慣性モーメントを計測するには専用の計測器が必要となり、バランス計のように安価にはできないという問題。
もう一つは、長さの二乗に比例して変化するということです。
今、使っているアイアンセットの振り心地を思い出していただけばわかりますが、通常セット内のシャフトは同一の重量で、バランスも統一されています。ところがグリップエンド支点の慣性モーメントは、長さの二乗に比例して変化しますから、アイアンセットの中で長い番手ほど慣性モーメントは大きくなっているはずです。しかし、ご自分が使っているアイアンの振り心地を思い出してください。長い番手の振り心地が重いとは感じていないと思います。このように、グリップエンド支点の慣性モーメントもフィーリングとは一致しないように思えますし、アイアンセットの例を見れば、シャフト重量が同じならバランスを合わせることは有効だと思えます。
ゴルフクラブ基礎知識Vol.7まとめ
バランスは
・シャフト重量が変わると同じバランスでも振り心地は変わる
・セット内のシャフト重量が同一ならば、バランスを合わせることは有効と考えられる
・シャフト重量が違う場合、バランスを合わせても振り心地は同じにならない
・グリップを支点とした慣性モーメントから考えると、長いクラブほどバランスやシャフト重量が軽くなってもOK
文
大塚賢二(ゴルフトゥデイ編集部)
1961年生まれ。大手ゴルフクラブメーカーに20年間勤務。商品企画、宣伝販促、広報、プロ担当を歴任。独立後はギアライターとして数多くのギアに関する記事を執筆。現在はギア担当としてゴルフトゥデイ編集部に籍を置く傍ら、有名シャフトメーカーのフィッターとして、シャフトフィッティングも行っている。パーシモンヘッド時代からギアを見続け、クラブの開発から設計、製造に関する知識をも有するギアのスペシャリスト。
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●Vol.1:超基本ギア用語講座【ロフト】
●Vol.2:超基本ギア用語講座【スピン】
●Vol.3:超基本ギア用語講座【バルジとロールとギア効果】
●Vol.4:超基本ギア用語講座【慣性モーメント】
●Vol.5:超基本ギア用語講座【重心とスイートスポット】
●Vol.6:超基本ギア用語講座【フレックス編】
●Vol.7:超基本ギア用語講座【バランス(スイングウェイト)編】
●Vol.8:超基本ギア用語講座【高反発と飛びの3要素編】
●Vol.9:超基本ギア用語講座【ゴルフクラブに使われる素材】