初心者に気持ちよくコースデビューしてもらうカギは『お味噌システム』…それって、どゆこと?
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第35回
<画像提供>篠原嗣典
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
写真提供/篠原嗣典
初心者を邪魔者扱いするゴルフに未来はない
「おいおい。前の組は初心者かよ。参ったね。日没で18番までできないんじゃないか?」
前の組にも聞こえるように、大声を出すオールドゴルファーが時々います。
ベテランぶって、カッコつけているつもりなのです。ゴルフには、大人を純真な子供に戻す魔力がありますが、その効果は、変な方向に発揮されて、こういうおバカな言動をとらせてしまうこともあります。
理性ではわかっているのです。『始めは誰でも初心者。自分だって初心者だったのだから、やさしくしなければ』
でも、楽しみにしていたゴルフがスタートするというときに、運悪く前の組に初心者がいるという現実に、ベテランゴルファーほど、気落ちしてしまうわけです。そして、幼稚な言動を…
当たり前ですが、初心者をいたぶるようなゴルフに未来はありません。少し前まで、初心者がコースデビューする際には、守るべき暗黙の掟がありました。
○ ある程度ボールが打てるように十分な練習をしてからコースデビュー
○ 経験豊富な上級者ゴルファーに同伴してもらってコースデビュー
○ 初心者は迷惑を最小限にするためにひたすら走りまくれ
このような掟をクリアしてコースデビューを果たし、経験を積んでベテランになったゴルファーにとって、掟を無視するような風潮に危機感を持つという事情もあります。
コースデビューの掟は、実は当事者である初心者が嫌な思いをしないための工夫でもあります。
ボールに全く当たらずに、空振りばかりではゴルフの面白さの最初のページを開けませんし、強者を伴ってコースデビューすれば、色々と守ってもらえます。走りまくれというのは、歩きのゴルフが当たり前だった時代には、それが『一所懸命にやっています!』というアピールになったからです。
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コースデビューをする上で大切なこと
令和のゴルフブームでコースデビューするゴルファーの卵たちは、親鳥にもなっていない卵から孵ったばかりのヒヨコゴルファーに連れられてコースデビューするケースが増えています。
僕は今年の春に、4人1組で、1人が明らかにコースデビュー(スイングでもわかるし、ティーアップの方法を教わっていた)という組の後ろに付いたことがあります。
コースデビューの若者は、4回空振りをして、5回目にやっと当たりました。他の3人の内、2人はそれぞれ1回ずつ空振りして、最後の一番レベルが高そうな若者は空振りはしませんでしたが、チョロって60ヤードでした。そのボールが4人の中で最も飛んでいるボールでした。
内心で『これは大変だなぁ』と思いましたが、心の中でエールを送るしかありません。同伴者に「誰でも最初は初心者です。今日は見守る1日にしましょう」と小さな声で話しました。
結果として、4人は、とにかく後ろに迷惑を掛けないように頑張ろうという努力はしていて、全体としてコースが混んでいたこともあって、前の組から離されることもなく、ハーフを2時間半では終えたのです。
コースデビューの掟を時代遅れで無効だという気はありませんが、ゴルファーとしての心意気があれば、どうにかなってしまうところも、ゴルフの面白さなのです。
正しい初心者の流儀で初級者にステップアップする
ゴルフの残酷さは、ゴルファーに対して、徹底的に平等なことです。ゴルフコースでプレーするゴルファーは、上も下もなく、みんな平等なのです。だから、「初心者だから…」という甘えは許されません。初心者の心意気として、それを理解することは、実はとても大切なことです。
ゴルファーの平等は、同時に、それまでに、どんなに苦労して、努力をしてきたベテランゴルファーであっても、他のゴルファーを傷つけるような言動をすることを許しません。ましてや、いたわる気持ちや歓迎する心構えで接するべき初心者に対してであれば、尚更です。我慢すべきを我慢できないことも、立派な甘えなのです。
そういう勘違いベテランゴルファーを僕はたくさん見てきましたが、ほぼ例外なく、その日は大叩きをして、ガックリと肩を落として帰宅することになるのです。
前の組の初心者が、イライラさせたからだと恨むようであれば、ますますゴルフが思い通りに行かない地獄に落ちていく結末が待っています。改心できるかどうかは、結局、自分次第なのです。
できる限り他のゴルファーに迷惑を掛けないという心構えと、甘えは許されないという心意気で、ゴルフをすれば、次に何をすれば良いかもわかりやすくなるので、確実に、そして、迅速に、初心者から初級者にステップアップできるはずです。
ゴルフの楽しさは無限大に広がっていくことを教え合おう!
コースデビューの掟にこだわることも否定は出来ませんが、この国のゴルフは社交術としてのステージを終えて、単純明快な趣味としてのステージに変わりつつあります。
「こんなに面白いゴルフを一人でも多くの仲間と共有したいんですよ」ゴルフ歴2年の若いゴルファーが、キラキラした瞳で話していることも否定は出来ないのです。
僕は、ゴルフ歴40数年で、3桁の人数のコースデビューに付き合ってきました。そこで蓄積してきた初心者をコースデビューさせるマニュアルがあります。
ひと言で書くと、『お味噌で行こう!』です。
子供の頃の遊びを思いだしてください。年下も一緒になって遊ぶときに、ハンディをつけて一緒に遊べるようにするときに『お味噌』というシステムを使ったことがあるはずです。ゴルフのコースデビューでも、お味噌システムを使うのです。
昭和の頃、ある業種の企業の社員たちは『3倍ルール』という初心者や初級者を救済するルールでプレーしていました。そのホールのパーの3倍の打数を打ったら、そこでボールを拾って、そのホールのスコアはパーの3倍にして、次のホールに向かうというものです。それが本当のルールだと誤解して、3倍になりました、とボールを拾ってしまう人とご一緒したときに、ビックリしたことが何度かありました。
これも、お味噌システムの一つです。僕が実践しているお味噌システムは以下のような感じです。
○ ボールが曲がって、傾斜や深いラフなどむずかしいライに止まったら、無罰でフェアウェイの打ちやすいところに移動して良し
○ 空振りは打数に数えない
○ バンカーは2回打って出なければ、ボールを拾って次のショットは手で投げて良い
○ グリーン上で3パットでもホールアウトできないときは、4パットOKでピックアップ
○ 前進4打があるホールで、1打目がそこまで飛ばなければ、ボールを拾って2打目を前進4打のティーから打って良し
スタート前に、コースデビューする本人に、ちゃんと説明をします。
「今日はお味噌システムでプレーしてもらうけれど、ゴルフの面白さはわかるはずだから、1日でも早くお味噌から卒業できるように頑張ろうね」プレーしながらも、用語やルールの説明をできる限りしますが、詰め込んでも意味がないので、本人の様子を見ながらです。
また、前の組から離されないようにプレーのペースを作ることや、打球事故を防ぐために「ファー」や打ち込まないように注意することなども説明します。本人の様子を見ながら、プレー中が無理なら、ランチのときに話をするようにします。
ゴルフが楽しいと感じる場面が多いほど、本人は知りたがる傾向があります。そういう場合は、数ラウンドで、お味噌システムから卒業できることが多いです。
令和のゴルフブームの一つの要因は、昔からあったコースデビューの掟を知らない新しいゴルファーが、次々にゴルファーの卵を産み続けていることだと、僕は考えています。
色々と問題はあったとしても、それは一過性のもので、ゴルファーが増えるメリットのほうが大きいのだと、僕を含めたオールドゴルファーは、新しいゴルファーたちに教えられた気がします。
誰でも最初は、コースデビューの初心者だったのです。その障害を通り抜けて、ゴルファーの卵は生まれて、孵ってヒヨコになっていくのです。迷惑をかけても、我慢してくれたやさしさがあって、今の一人前のゴルファーとしての自分がいることを忘れてはいけないのです。
ゴルファーの卵を見守るのも、ゴルフの内なのだと思えないゴルファーは、まだまだヒヨコゴルファーなのかもしれません。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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