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タイガー・ウッズが選んだブリヂストンのボール。当時の開発の背景にあったものとは

【第25回】商品開発はドラマ!糸巻からウレタンへ。タイガー使用球の開発がもたらした、ボール界の歴史が動いた大変革

2023/01/31 ゴルフサプリ編集部

タイガーウッズ,ウレタンソリッドボール

ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話をメーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はウレタンソリッドボール(ブリヂストンスポーツ)が主役のストーリー。

GOLF TODAY本誌 No.608/70〜71ページより
写真/ゴルフトゥデイ編集部 取材・文/嶋崎平人

ゴルフボールの歴史を変えた、タイガーを軸に組まれたナイキとブリヂストンの最強OEMタッグ

タイガーウッズ使用ボール

誰よりもボールに強いこだわりをもつタイガー・ウッズが選んだ、ブリヂストンのボール。開発当時は1.5mmのカバー厚さだったが、最新の「ツアーB」は0.8mm。2000年にナイキのOEMとして開発されたブリヂストンスポーツ製のボールを使用して以来、長年愛用している。

これまで幾度となくゴルフの歴史を塗り替えてきたタイガー・ウッズ。

PGAツアー優勝回数歴代1位タイ(82勝)、メジャー優勝回数歴代2位(15勝)、24歳206日で史上最年少キャリアグランドスラム達成など、記録にも記憶にも残るスーパースターといえる。

そんなタイガーが使用するボールもまた、歴史を変えた。「糸巻ボール」から「ウレタンソリッドボール」への激変である。

現在タイガーが契約しているのはブリヂストンスポーツ製のボール。

ブリヂストンスポーツの開発部門の4人に、なぜブリヂストンスポーツのボールを使用するに至ったかについて話を聞いた。

ナイキとブリヂストンスポーツがタッグを組んだ開発

開発担当者

開発当時のエピソードを語ってくれた、開発担当者。右から開発部門のボール生産企画部本部長・樋口博士氏、技術開発部部長・甲斐雅貴氏、ボール商品開発部部長・笠嶋厚紀氏、ボール基礎技術開発部部長・永沢裕之氏。

タイガーがプロ入りしたのは1996年。その当時、鳴り物入りでナイキと契約したが、ナイキは、シューズ、アパレルを展開していたもののゴルフ用品事業には参入していなかった。

タイガーとの契約を機に、まずゴルフボール事業への参入を開始したのが1999年2月。当時タイガーはタイトリストの糸巻ボール「プロフェッショナル90」を使用していた。

これを自社ブランドのものに変えるべく、ナイキはOEM先として経営陣が交流のあったブリヂストンスポーツを選んだ。そこから、タイガーに新しいボールを使わせるべく開発が始まった。

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開発担当者は、「これからのボールは糸巻でなく、特殊合成ゴムのコアとウレタンカバーを使ったソリッドボールである」と確信していた。

世界のトーナメントが糸巻き主流の時代にブリヂストンはプロが求める“飛んで止まる、飛びのバラツキを極限まで排除した”ソリッドボール開発に挑戦し、1993年ソフトサーリンカバーのソリッドツーピース「レイグランデWF」を発売したのだ。

このボールを使用してニック・プライスが1993年、1994年USツアーで賞金王獲得、1994年全英オープン、全米プロ選手権に優勝していた。

流れを受け、日本ツアーではこのボールが主力となっていたが、米国ではよりスピン性能が求められ糸巻ボールの強い時代。タイトリストが圧倒的なシェアを誇っていたが、その牙城を崩すべく、ナイキとブリヂストンスポーツがタイガーを軸にタッグを組んだ。

目指すは、「糸巻ボールのスピン性能を超えるウレタンカバーソリッドボール」の開発。

タイガーはプロ入り後、マスターズ最年少優勝など一気にスターダムにのし上がり、ボールテストは限られた時間の中で濃密に行われた。

00〜01年のタイガーメジャー4連勝で、糸巻きボール時代に終止符!以来続く、ブリヂストン球への信頼

TOUR B X/XS

タイガーのボールへのこだわりは、「グリーン周りの性能と打感で、本人は『deep』と表現しているやわらかな打感や感触があること、ボールが食いついて低く出せることである。」これらを満たしたボールこそが、ブリヂストンスポーツ製のウレタンだった。

ブリヂストンスポーツがウレタンカバーの研究を開始したのは1997年頃。

1999年3月、タイガーのそれまでの使用ボールを入手し、4月にオレゴン州ポートランドにあるパンプキンリッジGCで初期条件を計測、5月にタイガーの自宅のあるフロリダのアイルワースCCで試作ボールテストを行った。

10月、12月、2000年4月とテストし、2000年5月に最終テストを行い、高評価を得た。

そしてついにその月に開催されたドイツ銀行-SAPオープン欧州TPCで初めて試合で使用。そのボールが、ナイキ「ツアーアキュラシーTW」である。

このボールで2000年6月全米オープン、7月全英オープン、8月全米プロ選手権、2001年4月マスターズとメジャー4連勝し、糸巻ボールの時代に終止符を打った。

開発陣によると、タイガーのボールへのこだわりは「グリーン周りの性能と打感で、本人は『deep』と表現しているやわらかな打感や感触があること、ボールが食いついて低く出せることである。」

「アイアンやドライバーの弾道がウィンドウの中に入る、そのウィンドウ(空中)に9つのエリアを設定しその中を通せるボールを求めている。」「パターに求める打感は『clicky』である。」

これらの要求を満たすべく、素材、構造、ディンプルなど何パターンも試作し、評価を繰り返していった。

ブリヂストンスポーツの技術

ボール開発の歴史まとめ

ボール開発の歴史をまとめたものがこちら。1999年には「フォーピース(ソリッド)」、2000年には「世界初ウレタンカバー3Pソリッドボール」の記述が確認できる。まさに現代のゴルフボール時代への変革を遂げた時期がここだ。

話を聞いた開発陣は、当時20〜30代の若手。若かったので当時は徹夜も平気で、開発に邁進して短期間でタイガーのボールを作り上げることができた。

ただ、ウレタンカバーの製造は難しく不良率が高く「会社を潰すのか」と言われたことを鮮明に覚えてるとのこと。

開発部門と生産部門が現場に張り付いて改良を繰り返し、生産を軌道に乗せていった。

現在でもまだウレタンは扱いづらい材料であることは変らない。当時は1.5mmのカバー厚さであったが、最新の「ツアーB」は0.8mm。

ナイキがゴルフ用品から撤退したのは2016年。タイガーは自ら市販ボールをすべてテストして、その中でブリヂストンの「ツアーB330S」を選んだ。

使用ボールをそれまでの糸巻からウレタンソリッドに変えさせるほどの技術があったからこそ、タイガーはブリヂストンのボールを選んだのである。


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