ドライバーの最高飛距離は真冬に出る。本当の自然と戦うゴルフを経験することで見えてくる、ゴルフの奥義とは
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第52回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
写真提供/篠原嗣典
ゴルフは自然との闘いだが、本当の戦いは真冬のコースだけで体験できる
例えば雨が降っている日に、こんなふうに言うゴルファーはたくさんいます。「ゴルフは自然との闘いだからさ」
ゴルフは自然の中で行うゲームです。とはいえ、原野の中でゴルフはできませんから、あらゆる英知を集結して、ゴルフができる環境に整えたゴルフコースでゴルフは行われています。
芝生だけ見ても、あんなに広いエリアに、色々な種類の芝生を育成するだけでも凄いことです。ゴルファーが対峙しているのは、傾斜や高低差、川や池、谷というような地形的な自然に過ぎません。
熟練のゴルファーになると、こんなことも言うのです。
「雨よりも風が強いほうが、自然と闘っている難易度が高いよ」
雨は、レインウェアなどが本当に進化しているので、昔に比べるとあまり苦にならない、という意見もあります。しかし風の中のゴルフは、技術だけではなく、知識や経験などもフルに発揮しても思い通りにはなりません。風は見えないからです。
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初めてコースに出てゴルフをした人たちは、異口同音に、自然の中で遊べることは最高です、と感動します。
自分たちだけのために、数キロもホールという自然の回廊が18個も続くのです。非日常として、あの夢の国よりも何倍も凄いことです。
でも、残念ながらあっという間にゴルフ慣れしたゴルファーになってしまい、その感動は薄れていきます。そして、自然との闘いというのも単なるお題目に成り下がってしまうのです。それでも、ゴルファーは自然の前では無力で、弱い存在であることは経験を積むほどに思い知るのもゴルフです。
雨や風の天候や、暑さや寒さなどの気温も、自然相手の気まぐれです。ある意味で、サイコロの目のようなものでどうにもなりません。しかし、雪や嵐以外なら自然との闘いと軽く言えるぐらいに、ある程度はいつも通りのゴルフができます。
自然との闘いというゴルフ談義になるたびに、僕は思うのです。
『カチンコチンに凍ったゴルフコースこそが、本当の自然との闘いであり、最高峰である』
真冬にカチカチに凍るコースはどこにでもあるわけではありませんが、挑戦したことのないゴルファーに、自然と闘うゴルフについて語って欲しくないというのが、本音なのです。
我慢する美学を身につけてこそゴルファーとして一人前
最低気温がマイナスになった日が続くと、コースはカチカチになります。朝は霜が一面に張って、徐々に表面は溶けていきますが、地面はカチカチのままになります。
僕はこの状態を『永久凍土』と呼んでいます。真冬の前後は、朝はカチカチでも日中は解けて普通のコースになることもあることと区別するためです。
寒いので防寒ウェアや諸々の工夫で暖かくするのが基本です。真冬ゴルフの醍醐味は、防寒しながら違和感なくスイングして、ゴルフができるようにすることです。
そんな状況でもゴルフをすることに、ご褒美があります。真冬のドライバーはキャリーが落ちるのですが、凍った地面に上手く当たると普段の何倍も転がるのです。僕のドライバーの年間の最高飛距離は、真冬に出ます。上手く行けば、100ヤード近くランが出て、270ヤードぐらい打てるからです。
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さて、グリーンを狙うショットは普段のゴルフとは違う世界になります。コンクリートのように、ボールを弾くからです。一番手前にキャリーしたボールが、2バンドぐらいでグリーンをオーバーしてしまうのです。手前にバウンドさせて乗せようとしても、止まってしまったり、カチカチでオーバーするだけだったりします。
これこそが、自然との戦いの究極なのです。
良いショットや狙い通りに打ったショットが、ミスショットと同じ結果になってしまうので、その理不尽さに怒りがこみ上げてしまうのは、ごく普通の反応です。
グリーンの周辺で寄せやすい場所を見つけて、確実にレイアップするのが、最終的には王道の攻略法になるのです。しかしそこまで達観できるようになるのは、ショットが上手いゴルファーほどむずかしいのです。
ゴルフは、我慢の美学がわからない人には楽しめないゲームです。理不尽や不公平の連続だからです。
真冬の凍ったゴルフコースは、我慢の美学を鍛える場なのです。
結果として真冬ゴルフを乗り切ったゴルファーには、春になるとゴルフへの考え方やコースマネージメント力が向上するというご褒美がつくことも、よくある話なのです。
ゴルフの原点はグリーンにあり!原点を見直してゴルフを楽しもう!
その昔。初期のゴルフはボールをクラブで転がすゲームだったという説があります。パットだけでゴルフをする『パットパットゴルフ』のような感じです。
今では、グリーンはパットをするために特別に整備されたエリアになっていますが、昔はコース全体のことを意味していました。「ラブオブザグリーン(Rub of the Green)」という2018年までゴルフ規則でも使用されていた用語の中のグリーンは、コース全体の意味なので、昔の名残だったというわけです。
真冬の凍ったグリーンを攻略する方法として、僕はパターを多用します。残り100ヤード以内で、途中に障害がなければ迷いなくパターで打ちます。少し練習すれば、距離感が出せるようになり、転がってグリーンに乗っていくので、カチンコチンに凍った影響が最小限で済むのです。
もちろん、ウェッジの距離感のほうが何倍も優れていますが、真冬ゴルフでは高さを出すと、その分跳ねてしまい計算ができないので、封印してしまう方が最終的には楽な気分でゴルフができるのです。
初期ゴルフをしていた先人ゴルファーの気持ちになって、転がして攻略することを考えると、いわゆるコースマネージメントが鍛えられます。
バンカー越えでピンが手前というようなシーンは、バンカーを避けて乗せる場所はあるか、ということから始まって、そこからのパットはむずかしくないか、どの方向からがやさしいか、連鎖して考えることはどんどん増えます。
ゴルフは、耳と耳の間でするゲームだという神髄を味わえるのです。
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真冬ゴルフが教えてくれること
コツがあるとすれば、カチンコチンに凍った真冬ゴルフは、普通のゴルフのための特訓であり、スコアなどは年間の平均から除外したりします。10打ぐらいは悪くても気にならないように、始めから調整したりするような工夫も有効です。ボギーがパーだと考えてプレーするだけでも、実はかなり勉強になるものです。
ボールを転がすことは、ゴルフの原点を見つめ直すことになります。できることを制限することは、自分を客観視する意味で役に立ちます。
「早く春にならないかなぁ」そう願いながらプレーする真冬ゴルフをオススメするもう一つの理由は、ゴルファーの絆を感じられるからなのです。そんな面白みがないゴルフなんて、誰もやらないと考えるのが普通なのかもしれませんが、そういうゴルフコースにも必ずゴルファーは来ているのです。
思い通りにならずに泣きそうになったときに、その日にコースに集まったゴルファーがいることを思いだしましょう。名前も知らない方々ですが、厳しい状況でともに自然と闘うゴルフをする仲間なのです。
そう考えれば、全てを許せるゴルフの奥義が見えて来るでしょう。
非現実を楽しむのがゴルフです。真冬ゴルフは嫌でも、それを教えてくれるのです。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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