宮里藍も弾道の強さを高く評価した「ツアーステージ V10」の継承される技術とは?
【第38回】商品開発はドラマ!藍ちゃんの「最飛び(もっとび)」CMでおなじみ!アマチュアでも飛んで止まる“第3のボール”先駆者
ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話を、メーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はツアーステージ V10(ブリヂストンスポーツ)が主役のストーリー。
GOLF TODAY本誌 No.621/70〜71ページより
写真/ゴルフトゥデイ編集部 取材・文/嶋崎平人
コントロール系とディスタンス系のいいとこ取りで、アベレージでも飛んで止まるを実現!
アマチュアがプロのような条件で打てない中でも、飛んで止まることを開発目標に「第3のボール」として登場した「V10」。
2006年3月、ブリヂストンスポーツが発売した「TOURSTAGE V10」は新しいゴルフボールのジャンルを提案したボールだった。その結果、2006年の日経優秀製品・サービス賞優秀賞を受賞している。
ゴルフボールとしては同社が1982年に発売した、“特殊ゴムのコアと高反発複合樹脂の強化カバーを使用”した2ピースソリッドボール「ALTUS」に次ぐ受賞となった。
この「V10」の開発について、当時の商品企画や開発をよく知るブリヂストンスポーツ株式会社の品質ガバナンス本部本部長の松本雅一氏と、商品企画1部 ボール商品企画ユニットの小松淳志氏に話を聞いた。
当時のゴルフボールのジャンルは、プロが使用するウレタンカバーソリッド構造の“コントロール系”と、アマチュアの飛びに特化する一方でグリーン周りでは止まりづらい“ディスタンス系”の2タイプといえた。そこに、アマチュアがプロのような条件で打てない中でも、飛んで止まることを開発目標に「第3のボール」として登場したのが「V10」だった。
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試行錯誤した研究・開発
ブリヂストンスポーツ株式会社の品質ガバナンス本部本部長の松本雅一氏(左)と、商品企画1部 ボール商品企画ユニットの小松淳志氏(右)。
ブリヂストンがゴルフボールの研究・開発に着手したのが1932年、1934年からはボール試作を開始している。長い歴史と開発技術の蓄積がある中で、V10の開発がスタートしたのは2004年頃だという。
ちょうどこの頃はプロが使用するコントロール系(ウレタンカバー)の同社の「TOURSTAGE X01」が大ヒットしていた。
小松氏によると、「アマチュアのヘッドスピード領域で、飛んで止まることを目標にするために、新規に素材や構造を開発する必要があった。スピンを下げるためには、アイオノマーと呼ばれる硬いカバーを使用しなければならない」とする一方で、「スピンを増やすためにはX01で使用しているような軟らかいウレタンカバーが必要だが、その中間を狙う飛びとスピンを両立させるためには軟らかいアイオノマーカバー開発が必要だった」というのだ。
とはいえ、「軟らかいアイオノマーカバーは反発と耐久性が悪くなる傾向というか性質のため、その開発に30〜40種類の材料を試し、組み合わせを含めると100種類以上を試した」とか。「本当に苦労しました」という言葉に実感がこもっていた。
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スピンを減らすため開発された、コアの構造を外側が硬く、中心に向かって段階的に軟らかくする「ソフトNeoコア」。
ボールのカバーは軟らかくすればドライバーのスピンが上がってしまうため、スピンを減らそうと開発されたのが、コアの構造を外側が硬く、中心に向かって段階的に軟らかくする「ソフトNeoコア」だ。
このニューコアに加えて、さらなる飛びに直結する、「306個の2重WEBディンプル」も新たに開発。ディンプルの表面占有率を高めたものだったが、形状が繊細だったため製造する際の研磨工程に試行錯誤したという。
小松氏は「この時にいろいろ苦労したことでノウハウが積み重なり、現在のボール開発に生きている」と語っている。
アマチュアラインの「V」にプラス10ヤードで「V10」と命名
プロモーションには当時絶大な人気のあった宮里藍をイメージキャラクターに採用。ゴルフ専門誌への広告だけでなく、テレビCMも制作され注目を集めた。
V10という名前の由来について、松本氏によると「当時プロラインは強いイメージのある“X”、アマチュアラインは“V”を使用していました。いままでより10ヤード飛ぶとの思いを込めて『V10』という名称にした」とのこと。
また、プロモーションには当時絶大な人気のあった宮里 藍をキャラクターに採用した。ゴルフ専門誌への広告だけでなく、テレビCMも制作された。
初代のV10は「最飛び(もっとび)」がキーワードで、CMで当時はあまり有名でなかった武井壮さんが、本気のアマチュアゴルファーの代表としてボールを打ち、宮里藍が言葉をかけながらボールを置く内容。覚えている方も多いことだろう。
余談だが、プロラインのボールでなかったため宮里藍がプロの試合での使用はなかったが、ボールテストの際に打ってもらったことがあるという。
「ツアーのコンディションではアプローチショットでのスピンが足らず試合では使われなかったが、アゲインストの飛びで弾道の強さを高く評価してもらった」(松本)そうだ。
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藍ちゃん効果で、国民的ヒット商品に!
そして、2008年発売の2代目は「弾丸ライナー」がキーワード。教室で宮里藍が先生役となり当時読売巨人軍の弾丸ライナーで有名だった淡口選手が出演していたものだ。こうして“藍ちゃん”をキャラクターに採用したことも後押しとなり、「V10」はヒット商品に。ショップやユーザーからも「大きく飛ぶのに、スピンもしっかりかかる」とコンセプト通りの高い評価を受けた。
2016年の6代目「BRIDGESTONE GOLF TOUR B V10」までの、累計の出荷数は、なんと500万ダース!このヒットを支えたのは、生産が難しい新しい材料や構造の開発とともに挑戦した生産部門の支えがあったことは間違いない。
V10で培われた多くのアマチュアに適した大きな飛びと適度なスピンを生み出す技術は、最新の「TOUR B JGR」にも、脈々と引き継がれている。
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