“ホーガン流”強いアイアンスイングの作り方〜スイングを育てる流れとは?
アイアンが際立つ!強いスイングの作り方[第1回]
強いインパクトの条件を知ることから始まり、パワーフェードの技術を解析してきたが、どうすれば効率よくマスターできるのか。ホーガンのスイング技術の変遷を追いかけるとそのヒントが見えてくるかもしれない。
ベン・ホーガン(Ben Hogan、1912~1997)
アメリカ・テキサス州出身。身長173㎝、体重68㎏。ツアー通算64勝。
メジャー3勝後の1949年に自動車事故で瀕死の重傷を負うが、翌年に復帰。以後、メジャーでは1953年の3冠を含む6勝を加え、グランドスラマーに。1948年に『パワー・ゴルフ』、1957年にレッスンのバイブルと呼ばれる『モダン・ゴルフ』を著し、現代でもそのスイング理論は多くのゴルファーに影響を与え続けている。
ホーガンのスイング変遷
11歳でキャディの仕事と同時にゴルフを始めたホーガン。キャディ仲間との練習後の球拾いは、ドラコンで負けた者が行うため、小柄なホーガンは飛ばし第一のスイングを目指した。テキサス州は風が強く地面が固いため、低いフックでランを稼ぐと距離を稼げた。フックグリップとオーバースイングで飛ばし屋となったホーガンは、17歳でプロ入りするほどに上達した。
肝心なところで出るフックのミスで、25歳まで未勝利。ダブルス戦で初優勝後も勝てない日が続いた。27歳になり、ヘンリー・ピカードからグリップ改善の助言を受けた直後にツアー3連勝。ショットの精度が格段に上がり、第二次世界大戦まで3年連続賞金王となった。30歳から32歳までは徴兵によりトーナメント出場はなし。ただし、練習やラウンドはこなしていた。
33歳でツアー復帰後、従軍中に試行錯誤していた、左親指をロングサムからショートサムに修正。トップでのクラブの不安定さがなくなり、オーバースイングも軽減。よりショットに精度が高まり、その年だけで5勝。翌年、34歳でメジャー初タイトルとなる全米プロを含む13勝を挙げた。36歳でバスとの衝突事故に合うまでの3年半での勝利数はメジャー3勝含む37勝だった。
交通事故で左半身がボロボロになり、ツアー復帰は不可能と思われたが、不屈の精神と驚異的なリハビリで約11カ月後に復活、ツアー復帰戦でプレーオフとなり2位に。翌年には全米オープンで復活優勝。このころからオーバースイングではなくなったが、ショットの精度はさらに進化。高効率スイングに移行し、年間出場試合数は激減したが、メジャー6勝を挙げてグランドスラマーに。
豊富すぎる練習量が生んだ最強スイング
ホーガン流で、最も真似できないのは、その練習量だろう。記録によると、毎日500球打った、45分間連続でフルショット、4時間以上は当たり前……など。
「体力もさることながら、気力とモチベーションがすごい。それも1球ごとに手を抜かないなんて。10代のジュニアならまだしも、30代でも続けられる人はほとんどいないでしょう。
ですが、スイング作りの流れ、マスターの仕方はすごく理にかなっていると思います。まず、クラブをしっかり振り回すことから入っている点は見習うべきです。
ゴルファーは球に当たるようになると、大抵は真っすぐ飛ばすことばかり考えるようになりますが、せめて最初の1年くらいは、飛ばすためにどこまで速く振れるか、どれだけ強く打てるかを考えて練習する感覚が必要です。そこでスイングの“飛ばしのパーツ〟ができるんです」(森)
スイングの完成形は「左腰で引いて、右手で叩く」
❶右手首のヒンジングを使いこなす
「スイングの支点は脊柱上部とグリップの2か所。グリップ支点はヘッドを効率よく加速するのに重要ですが、右手首のヒンジングをフルに生かして叩くコツを覚えるのが絶対条件です」(森)
❷左腰でターンをリードし続ける
「いわゆる“左のカベ”などは、ホーガンはまったく唱えませんでした。とにかく左腰を引き続けてターンを止めない、それでも“強く叩く”から振り遅れない。ヘッドの加速には、これがベストです」(森)
<ホーガン流スイングの原点>フックグリップで強いフックを打つ
フックグリップは右手のヒンジングを覚えやすい
インサイドから振り下ろす感覚に
フックを打とうとすれば、インサイドアウト軌道をイメージするようになる。すると、クラブがプレーンから上ずらないように、ダウンでクラブを背中側に落とすようになる。
背中側のクラブのタメはヒンジングで
ダウンでシャフトが立つとコッキング方向にタメができるが、シャフトが背中側に倒れると右手首のヒンジング方向に深いタメができる。
「上下」ではなく「前後」に鋭く振り抜く!
ハイドローではなくローフックの効用
「インサイドアウト軌道はアッパーになりがちですが、低いフック狙いなら振り抜きも低くなる。インサイドから低く振り出して、ヘッドを跳ね上げずに低く振り抜くから、エネルギーの伝達効率がいいインパクトになったんです」(森)
フックグリップはヨコに上げたクラブで叩ける
「飛ばそうと思った非力な子供が重いクラブを振り上げたら、自然と手首を深く折り曲げるはず。その場合、左手首も甲側に折れます。そして、上から下に振り下ろして叩こうとするはず。でも、これでは飛ばせません」(森)
そこでフックグリップでフックを打とうとすると、どうなるか。「右ヒジが左ヒジより低くなることで、インサイドに低く引きやすくなります。インパクトも、上からではなくヨコからヘッドを入れていく感覚になります。
ホーガンは打球をコントロールする右手の動きを野球のサイドスローにたとえて解説しましたが、フックグリップで〝右肩の後ろに引く〟トップが身についていた、というのも大きな要素でしょう。クラブを上下方向ではなく、前後方向に振る感覚がベースになっていたから、強く振っても前傾角度がブレず、シャローなインパクトゾーンが作れたのです」(森)
ホーガンアナリスト
森 守洋
ベン・ホーガンを手本としたダウンブローの達人・陳清波に師事。現在もホーガンの技術研究に余念がない。
イラスト/久我修一 取材協力/東京ゴルフスタジオ 写真/Getty Images
GOLF TODAY本誌 No.576 81〜85ページより
【関連】アイアンを上達!打ち方のコツやスイング練習方法をプロが解説
●アイアンが際立つ!強いスイングの作り方
第1回:スイングを育てる流れとは?
第2回:「フックで飛ばす」動きとは?
第3回:スナップ動作から作る「プレーン」
第4回: 強い風に揺らがない「アドレス」
第5回:スタンスを“スクエアにしない”理由
第6回:スナップを磨くパッティング
第7回:アプローチを作る「ワッグル」
第8回:“負ける左腕”が生む低いフォロー
第9回:“トップで止まらない「切り返し」の理由
第10回:ホーガンの「フック病」が長引いた理由
第11回:常勝を呼び込んだグリップ改造の正体とは?